本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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四皿目 絵画王子

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 リューオとじゃれ合っている時の殺すとはわけが違うことぐらい、俺にもわかる。

 アゼルは生殺与奪にあまり疑問を覚えない、魔族の王様なのだ。

 そうしようと決めたらそうする。そういう種族だから。

 ──むむ……無断侵入は俺としては慣れたものなんだが……相手は選んでいただきたいものだ。

 俺はうぅん、と首を撚って、リシャールを見つめた。

「声だけだったお前が、どうして霊体になったんだ? そして人の部屋に夜遅く勝手に居座ってはいけない。とりあえず、また明日おいで」
「コイツに明日も明後日もこねぇよ?」
「アゼル。アゼルおち、落ち着いてくれ。その鎌をしまうんだ」

 物騒なことを言う魔王を見上げると、リシャールを見つめるアゼルは真顔だった。

(こ、これは無表情一歩手前並の真顔だ。まずい)

 相当怒っている。
 なんせ俺達の寝床に、未だに霊体が寝そべっているのだからな。

 俺はとりあえず焦ってアゼルの戦闘態勢を解くようにお願いすると、渋々しまってくれた。

 が。やはり真顔だ。

 不機嫌に殺気を飛ばされても呑気に半透明なリシャールは、ふわりと浮かび上がって俺達の前にストンと立ち止まった。

『シャル。君が許しを与えたから、私は絵から魂を現世に持ってくることができたんだ』
「許し……?」
『愛しの姫よ……君は私のもの、ッ』

 だが話の途中で──シュッ、と素早くなにかが横切る。

 キョトンとする俺に手を伸ばそうとしたリシャールの言葉は、しまったはずのアゼルの赤い鎌が一瞬で彼を幾重も切り裂いたことで、途切れてしまったのだ。

「っな、」
「触るな、俺のモノだ」

 驚いた途端背後から聞こえたのは、耳馴染んだ愛しい声の、とびきり冷たい音。

 切り裂かれた霊体が、煙をかき消すように消えてしまう。

 だが消えた霊体は少し離れた場所で散り散りになったモヤを集めて、また形をなした。

 それを認識した途端。
 動揺もなにも感じないまま、再度魔王の凶刃が襲いかかる。

(あ……)

 それを理解すると、どうしてか、目がくらりと揺らぐ。

「──やめろッ!」

 どこからか、静止の声が聞こえた。

 それによって、再形成されたリシャールを襲いかかる凶器が、ピタリと動きを止める。

 止めてしまう声だったからだ。

「シャル?」
「は……?」

 声の主は──俺だった。

 いや、俺はそんなこと口にしようとした覚えはない。

 覚えはないのに、口が勝手にリシャールを庇ったんだ。
 わけがわからない。

 サッと口元を押さえる。
 アゼルがポカンと俺を見つめて、困惑しているのがわかった。

 だが俺の口はスラスラと、意識の外から勝手に言葉を紡ぎだす。

「リシャールを攻撃しないでほしい。もし攻撃するなら、俺が相手になろう」

 冗談ではない真剣な表情で、俺は思ってもない言葉をアゼルに訴える。

 俺が本気で相手になったって、勝てないのがアゼルだ。

 それになにより、戦いたくない。
 俺はアゼルに切りかかることは、もうできない。

(なん……で、だ……っ?)

 焦ってもう一度口を塞ごうとするが、手が動かない。

 身体が、思うように動かない。



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