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四皿目 絵画王子
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部屋に戻っていつもどおりに食事をし、アゼルは慎重に結界を張って執務へ向かった。
その間アゼルは核心に触れず、俺は核心を話せず、当たり障りのない会話しかしない。
ただアゼルが部屋を出る前に、どちらともなく強く抱き合った。
痛いくらいの抱擁だ。
俺は骨が軋んで、後で見ると肩に薄い痣ができていた。
いつもは力の制御も完璧なのに、抑えきれなかったんだろう。
そんなことは言わずに、痛い抱擁を俺は受け入れた。
負けないくらいに懸命に、俺も抱きしめた。
『俺はお前以外いらねぇよ。お前だけ、お前がいればいい。なぁ、俺の想いは伝わってるか?』
『伝わってる。同じ想いだ』
『なら、信じるぜ。俺はお前を信じる』
はっきりと言いきって部屋を出たアゼルの言葉は、〝信じ続けていいんだな?〟と問いかけているように思えた。
信じていてほしい。
だが、あんなことを繰り返すなら信じてくれなんて言葉は、薄っぺらいものになる。
焦りを抱えた俺は一人、どうにか事態を好転させようと抗った。
そう心に決めて数時間後──俺は頭を抱えてテーブルに肘をつき、項垂れた。
事の次第を大声で叫ぶ、声が出なくなる。
紙に記す、別の文章になる。
いっそ絵を描こうとすると、まるで違う絵になった。
暗号で書こうとしても無意味だ。
ようは伝えようという意思を持って発した言葉や行動は、キャンセルされる。
流石に意識の外から行動は出来ない。
アゼルは休憩時間にこっちに来ると言っていた。
その時までになんとか伝える術を見つけられたらと思ったが……八方塞がりだ。
昼食も取らずに四苦八苦と考えたのに、戦果は思わしくない。
──ただ一つだけ、仕込むことができた。
誰にも見られていない一人の時だけ召喚魔法を使えるようになっていたので、俺は絵画をすぐに取り出せないように、部屋に隠したのだ。
燃やそうとしたが、当然できない。
だからこそ、誰かに害されそうになったらきっと俺は身を挺して守ろうとするだろうから、すぐには守れないようにした。
その隙に奪ってもらう為だ。
アゼルなら、守ろうと動いた俺を見てからでも、俺より早く奪えるはずだ。
意図がアゼルに通じるかは確信がないが、俺に出来るのは、そのいつかくる筈の機会を狙うことだけだった。
気落ちしながらも散らばった紙を片付けて、アゼルがやってくるのを待つ。
アゼルは俺の状況を知らない。
けれど本気でリシャールを目の敵にしていたから、手掛かりの実物がなくなってもなにか考えているかもしれない。
相手は幽霊だ。
魔法でどうにかなるかわからないと本人は言っていたが、もし効かないならいくら魔王でも勝ち目はない。
なにも知らないまま向かっていけば、手の打ちようもないだろう。
それに向こうが現れてくれなければ、今のところ彼に会う方法がない。
対応は全て後手後手だ。
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