299 / 901
五皿目 元・勇者VS現・勇者
07
しおりを挟むなんだか突然乗り気になったアゼルに、リューオは呆れてケッと胡乱げな目を向けた。
おお、やっぱり自分のステータスが気になったのか。
どんなステータスでもアゼルはカッコいいけれどな。
サクサクとクッキーを食べる俺を抱きしめるアゼルは、期待の眼差しでチラチラと見つめてくる。
しかしなんの期待だろう。
(うぅん……? ん、もしかして)
俺は指先で摘んだクッキーを見て、はたと気が付く。
「アゼル、あーん」
「ぅあっ、おっおう。あっぁ、あーん……!」
クッキーを食べさせてほしいのかと思い手に取ったクッキーをそのまま差し出すと、アゼルはプルプルと震えながらも口を開いた。
うん、正解だな。
俺の察しもなかなかよくなっただろう?
食べたいなら自分で取ればいいのに、甘えたな魔王だ。そこがかわいいんだけどな。
もぐもぐと咀嚼しながら俺の肩口に額をグリグリ押し付けて悶えるアゼルは、いつもの発作を起こしているだけだと思う。
たまになにかが極まったらおかしくなる。
それがアゼルの生態だ。
一連の流れを見ていたリューオが、うげぇとアホを見る目でアゼルを見つめていた。
そうだろうそうだろう。かわいいだろう。あげないぞ? 俺のなんだ。
「絶賛ユリスにキレられ中の俺にバカップルのイチャイチャを見せつけんじゃねぇよッ、今の勇者様はリア充撲滅委員会だぜオラァ」
「ハンッ! 見たくなけりゃ眼球抉ってろよ悪人面が。勇者ってより狂戦士だろテメェ」
「おーし表出ろや膾にしてやらァッ!」
「リューオ、ちなみになんで怒られたんだ?」
「……陸軍の仕事手伝った帰りに見かけたから抱きついたら〝お前のそういうデリカシーも気遣いもない野蛮なところが無理ッ! 魔王様と大違いッ! 恥を知りなよッ!〟って……なにが嫌だったんだよわかんねェ……軍服が血みどろだったからか……?」
「「あー……」」
渋々とした説明を聞いて、俺とアゼルの声がシンクロした。
お察しといった声をユニゾンで聞いたリューオは、べコンッと落ち込んでクッキーを五枚程一気に頬張る。やけクッキーか。
リューオはその出来事以来、近寄ろうとすると蔑んだ目で睨まれ、無言で逃げられるらしい。
ユリスはリューオが陸軍の仕事を手伝っていることを、知らなかったみたいだ。
じっとしていることができない性分なのと、元々魔物を狩ったりしてお世話になった村を守っていたリューオは、魔王城でも陸軍に混ざって治安活動をしている。
魔王・魔族特攻の聖剣の使い手なリューオにかかれば、魔族でもない魔物の処理なんてお手の物なのだ。
勇者の存在一人で人間国の魔物被害が減るのだから、そのぐらいの戦闘力はある。
他の軍魔に難グセつけられたらタイマンでぶちのめしているらしい。
リューオは本当に勇者なのだろうか……。
最早狩人だろう。
ゴホン。閑話休題。
リューオは凄い人間だ。
ユリスに避けられ落ち込んでいるのが可哀そうになり、哀れみの視線を向ける。
居心地悪そうにまごつくリューオが「ほっとけ」と言い、話を終わらせた。
なるほどな。
それでアゼルの弱点を探そうとしていたわけだ。
負けず嫌いだから、好きな子のアイドルに勝ちたいんだろう。
うんうん、大丈夫だぞ。
後で一緒にユリスの様子でも見に行こうな。
「ったくなにが魔王様と大違いだ。コイツだってどうせステータスゴリラみてェに決まってンだろッ。男はみんな蛮族だわ。ロマンス小説みてェな男が現実にいるかよ。いると思ってるユリスかわいいかよ」
「蛮族か? ユリスも男だぞ」
「性別、ユリス」
なんだと。
そうだったのか……知らなかった。
ユリスは男でも女でもなくユリスなのか、だからあんなに小さくて柔らかくて愛らしいんだな。確かにかわいい。納得した。
納得して頷いていると、アゼルのステータスを見ようとしながら、リューオはバカを見る目で感心する俺を見た。
な、なにも言ってないじゃないか!
47
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
その男、ストーカーにつき
ryon*
BL
スパダリ?
いいえ、ただのストーカーです。
***
完結しました。
エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。
そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。
ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる