本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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閑話 水底から見た夜明け

06

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 ──たおやかに差し込む朝日に照らされ、目を覚ました。

 瞼を開くといつも、目の前には俺を抱き締める愛しい男の寝顔があるのだ。

 なにも特別ではない日常風景だが、朝の清涼な空気に絆されて尊い気持ちになる。

 まだ夜が明けたばかりなのか、部屋は少しだけ薄暗い。

 季節的には肌寒くなってくる頃なので、朝の冷えはこの腕の中に魔性の暖かさで、俺を捕らえて離さないのだ。

 緩く瞬きを繰り返す。
 ついさっきまで、夢を見ていた。

 昔──本当にあった日のことだ。

 あの時の俺は、痛みと発熱で眠れなかった。結局朝まで震えて過ごしたのだ。

 翌朝無理に冷たいシャワーを浴びて訓練に臨んだせいで、訓練中に倒れてしまった苦い思い出。

 流石に怪我は治癒魔法をかけられ、解熱薬を貰って訓練はなしになったが、昼過ぎに起き上がれるようになると王の護衛に駆り出されたと思う。
 あまり好きな記憶ではない。

 だが、どうしてか夢の中の俺は、酷く穏やかな気持ちで温もりを感じながら眠った。

 目が覚めると夢の記憶というものは、ぼやけて輪郭を失ってしまう。

 けれど俺が一人だとやってくる愛しい夜明けに、あの日の俺は確かに救われたのだ。

 思い返すと嬉しくなって、頬が緩む。

 普段のツンとすました顔を緩めて、幸せそうに笑っているアゼルの頬を、ツンツンとつついた。なんの夢を見ているんだろう。

 アゼルの見る夢も、そして現実も、俺は全部をあたたかな気持ちで満たしてあげたい。

 一人で強がっていなければいいな。
 もし一人なら、そっと寄り添っていたい。

「──ん、む……う、ぅん……?」

 朗らかな気分で頬をつついていると、つつかれたアゼルがむにゃむにゃと唸りながら、そっと目を開いた。

 俺はクスクスと笑って、夢で見たものと同じ澄んだ黒曜石の瞳を見つめる。

「おはよう、アゼル。夜が明けたぞ」
「あ……? まずい、仕事、は……、ン……? ……あぁ……そうか」

 朝に弱い夜行性なので寝ぼけ眼のアゼルは、俺を見つけて少しだけ驚いた様子だ。

 数度瞬きをして、すぐに夢と現実の区別をつける。

「……おはようだ、シャル」

 不機嫌を装った仏頂面でぎゅっと抱きしめられて、更に笑いを誘われた。

 眠そうな瞳で誤魔化すように照れくさそうにして見せても、お前が俺と同じ気持ちであることは、お見通しだからな。

 おはようの挨拶とハグを交わした俺達は、しばらくお互いの熱を分け合った。

 本当はもう少しそうしていたいけれど、一日が始まってしまう。

 後ろ髪を引かれながらも起きようと声をかけると、黙ったまま髪にキスをされ、そのまま額、頬、唇。

 今日は甘えたい気分なのかもしれない。
 懐くアゼルの手を引いて、俺は笑いながらベッドから降りた。

 後ろから抱きつかれながら洗面所に向かい、顔を洗って身支度を整える。

 二人、並んで歯を磨く。お互いに薄いヒゲを剃る。結婚指輪を磨いて、キスをする。

 それから、お前にもキスを。
 これが日常。忘れてはいけない。



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