本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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六皿目 純情変態桃色魔王

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 そうして二人で話していると──デジャヴ。

「「…………」」

 執務室の扉がガチャ、と開いて現れた光景に、俺はまたしても首を傾げて、脳内に?をたくさん浮かばせてしまった。

 勝手知ったる、と言った様子で執務室に入って来たのは、もちろん彼だ。

 なんとも形容しがたい姿をしているが、恐らく俺の愛する人に間違いない。

 だが、首を傾げずにはいられないのが、このよくわからないリターンズな光景。

 獣耳獣尻尾で機嫌よく尻尾を振っているまでは、先程と同じだった。

 けれど今度はお腹に詰物じゃなく、顔に白い仮面をつけている。
 恐らくと言ったのは、コレのせいだ。

 その白い仮面──なぜならば仮面をつけて、意気揚々と俺のところにやってくるアゼル(仮)。

 仮面の造形が白地に穴を三つあけた、記号のなぜならばを貼り付けただけの造形なのが、異様さを醸し出している。

 視界の端でライゼンさんが、微笑んだまま石化しているのが見えた。

 うん。ライゼンさんが思っていたより、アゼルの発作は激しい発作だったみたいだ。

 俺はおかわりなので驚くというより、その仮装のコンセプトが気になる。

 今回はなにがしたいのだろうか、と考えていると、目の前までやってきたアゼル(仮)はソファーに座っていた俺をヒョイと軽々抱き上げた。

「うお、」

 横抱きでも抱きしめるでもなく、尻の下に腕を入れ子供のように片腕で抱えられてしまう。

 咄嗟に落ちないように、アゼル(仮)の肩に両の手を置いた。

 突然始まった、右腕が俺を抱え、左腕は俺の腰に添えられ支えられる、この状況。

 俺は右に傾げていた首を、今度は左に首を傾げてみる。

 自分の胸あたりにあるなぜならば仮面を見つめると、耳がピコピコ動いて、下ではパサパサとふりしきる尻尾の毛が音を立てた。

「アゼル?」
「あ? 当たり前だろうが」

 なんてこったい。
 やはり俺の嫁だ。

 当然のように「お前を抱き上げる男は、俺しかいないに決まってんだろ」と言うアゼルの仮装のコンセプトがやっぱりわからなくて、困ってしまった。

 その俺しかいない理論はわかるんだけれど、なぜそうするべきなのかは不明である。

 仮面越しでは全く表情が読めないが、取り敢えずアゼルの機嫌がいいことは、尻尾が雄弁に語っていた。

「シャル、俺はお前よりちいせぇだろ?」
「ん? まぁ今は俺より下にいるな。それがどうしたんだ?」
「クックック……! まだだぜ。俺のこのなんの眩しさもない見事な顔はどうだ?」
「んん……いい仮面だと思うが……アゼルの顔が見えないのは、残念だな」

 スパンッ! と音を立て、吹き飛ぶ仮面。

(か、仮面が飛んでいった……!)

 顔が見えないのが寂しくてそう言うと、アゼルの左手が素早く仮面を弾き飛ばしたのだ。

 早すぎてこの一瞬、手がちゃんと見えなかった。こだわりの仮面ではないのか。

 飛んでしまった仮面は天井に当たり、床にポトリと落ちる。

 代わりにいつものアゼルの顔がツンとそっぽを向いていて、仏頂面にも関わらず、頬が少し赤かった。

「仕方ねぇな。す、好きなだけ見やがれ……! 特別だぜ、ド素直め。まったく、まったくゥ……!」
「あはは、ありがとう。ちなみにあれはなんの遊びだったんだ?」
「アレは幼児向けの秘策だ」

 うん、やっぱりよくわからない。

 真剣に告げられるが、なんでこれが秘策なのかわからなかった。

 なので取り敢えずアゼルの頭をポンポンとなでて、床に下ろしてもらうことに。

 獣耳があるから、なんだかついなでてしまう。

 元々仲のいい人の頭をなでるのは俺の癖だが……なんというか、どうしても犬のようでいつもよりそうしてしまうな。



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