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七皿目 ストーキング・デート
03
しおりを挟む「アゼル、俺にも使えるお金がいくらかあるから、お小遣いは大丈夫だ。それになにか買いに行くわけじゃない」
「だけど城下街は魔界一の流行都市だ。あって困るもんじゃねぇだろ? 俺だってその……普段どこかへ連れて行ってやれねえし、お前は物を欲しがらねぇから、まぁ、そういうあれだ」
「うぅん……」
一度はお断りしたが、アゼルはむむ、と神妙な顔で再度差し出してくる。
どうやらこのお小遣いは、アゼルなりに考えあってのことみたいだ。
普段からデートをしない俺たちだが、城に缶詰にしているのを気にはしていたのか。
俺は全く気にしてないんだが。
(しかし理由あってそう言われると、完全拒否するのは申し訳ないな……)
俺は腕を組んで悩んでから、ややあって指を一本立てた。
「それじゃあ一枚だけ貰おうかな。お土産を買ってくる」
「よしきた。受け取りやがれ。土産代と飯代とその他……」
「そうか……。……アゼル、食堂の日替わり定食が一食いくらか知っているか?」
「銅貨八枚だな」
「百食食べてもお釣りが来るだろうこのアンポンタン」
「なんで俺また怒られたんだ」
俺のデコピンはまったく攻撃力がなかったが、結局断固お小遣いを拒否することに成功した。
なんで金貨を手づかみで差し出すんだ。
アゼルの個人的な金銭感覚には、ほとほと困り果てる日々である。
♢
──翌日。
白いチュニックにカーキのベスト。
革のベルトに麻のズボンとショートブーツ。
そしてグレーのマントを羽織った俺は、コソコソと忍びつつ、城壁の向こうへやってきた。
要塞レベルで高い壁をだな、魔法陣と隠密を駆使して這い上がったんだ。
背面が崖地帯の魔王城なので、前目のところで待ち合わせている。
俺が待ち合わせ場所に行くと、リューオが平軍魔の軍服の上着を脱いだ上に、フード付きのポンチョを羽織った様相で既に待機していた。
「悪い、待たせたな」
「別に、あんまかわんねぇよ」
声をかけるとリューオは気軽に片手を上げて機嫌よくニィっと笑う。
どうやって出てきたのか聞くと、休みだけど陸軍の巡視隊にまざってきたらしい。
だから軍服なのか。
「リューオ、変装グッズをもらってきたんだ。これを飲んでくれ」
俺はいそいそと召喚魔法で薬の入った小瓶を取り出し、差し出した。
透明な液体の薬は、諜報部隊御用達の鬼族化薬である。
昨日俺がアゼルに打ち明けた後、ライゼンさんに頼んで諜報部隊が使う薬を貰ってきてくれたのだ。
いくら魔王がいいつけていても新しく来た知らない魔族はいるだろうし、人間が街に行ってばれるとまずい。
アゼルは心配性だからな。
とはいえ俺にも前科があるため、過保護を断れない。
前に飲んだ、子供のお遊びで一時間だけ耳と尻尾が生えるなんちゃって獣人化薬。
あれとは違い、見た目だけならほぼ完璧に鬼族になれる本格的な代物だ。効果は一日。
ただデメリットもある。
鬼族といってもたくさん種族がある中で、体質にあった種族にしかなれないようだ。
アンデット族にもグールやレイスなどいろいろいるように、鬼族もいろいろいる。
全てが均一で確実な効果がないと、軍事的には微妙な価値になってしまうのだろう。
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