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七皿目 ストーキング・デート
06(sideアゼル)
しおりを挟む『残念ながら俺は一発殴るじゃなくて、全員の腕をもぐぜ』
お散歩形態──小型クドラキオン姿の俺は、木の影から街へ向かって歩いていくシャルとリューオを追いかけつつ、さっきの話に一人返事を返す。
シャルを捕まえて齧ろうとするゲス共の腕なんて、こう、チョンと。
身体とお別れ必須だ。
俺はコソコソついて行きながら、ぱっと見は鬼族の二人組に化けたシャルたちが街へ進むのを、距離を取って見つめた。
あ? なにをしてるのかって?
見たらわかるじゃねえか。
そもそもゲス共が近づかねぇように、見守ってるに決まってんだろ。
見えない誰かに胸を張る。
安心安全の魔王セキュリティだぜ。
ことの始まりはもちろん昨日。
夕食を食べながらシャルに出かける旨を知らされた俺は、本当は大反対をしたかった。
だが、シャルは前に俺が余裕がなく焦って勘違いして拗れた出来事を、ちゃんと覚えていたのだろう。
もう俺が勘違いしないよう、シャルはあけすけに経緯と目的を話して、ちゃんと許可を求めた。
そんなシャルの誠意を無碍にして頭ごなしに駄目だと言うのは、可哀想じゃないか。
というか、本当は行くなと言おうとしたんだが、しょぼくれて「行かない」と言うシャルに罪悪感をあれされて……ッ!
結果、過去の失敗もあって、許可を出すことにしたわけだ。
俺は昨日の夜のうちにライゼンの部屋を訪ねて変装用の鬼族化薬を貰い、ついでにこっそりと今日の休みを取った。
書類仕事はまたフルスロットルでやるから問題ない。
多少会議と謁見がごちゃついたので、ライゼンに小言をくらったのが問題だったが、安心しろ。
そこはまぁ温厚な俺のあまり使わない方法──作戦名力で物を言わせるを発動させてまかり通したぜ。
俺は王様だしな。魔族だしな。
そして休みなのにしれっと朝からシャルにおはようとキスと、行ってらっしゃいを貰い、出勤。
執務室へ行くフリをして待ち合わせ場所に先行待機。
周囲の反応でバレないよう、念の為に姿も変えた。
待ち合わせ場所から街までのルートに生息していた危険そうな魔物を、先に細切れにして焼き尽くしておく。
細やかな気遣いも、忘れない。それが魔王。
ふふん。できる男は気付かれないように、できるだけ快適なお出かけを守るもんだぜ。
コソコソと話に聞き耳立てながら、俺はなるべく気配を消して後をつける。
それを世間一般的には〝ストーカー〟と呼ぶらしいが、そんなことには気づかない俺だった。
『くぅぅ……っしかし幽鬼バージョンのシャルもかわいいぜ……!』
コソコソ見守りつつ、尻尾をブンブン振って、いつもと一味違うテイストになったシャルを目に焼き付ける。
幽鬼ってえのは死霊が力を持って鬼になった魔物で、本来はアンデッド系を主食にする、いわゆる幽霊みたいな見た目の鬼だ。
魔物だと厳つくて不気味で、一部は断固拒否レベルで嫌がる。
魔族だとあんな感じで黒い髪に細い角が生えた姿をしている。
擬態はすこぶるうまくいったらしい。
(と言うか、普段よりちょっとクールじゃねぇか……! 目つきがやや鋭い……! 俺を殺しにかかってた時みたいでアガる……!)
内心でホットに悶え、いい仕事しやがるな薬! と親指を立ててウキウキと街までの道を歩いた。
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