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七皿目 ストーキング・デート
16(sideアゼル)
しおりを挟む「さぁさぁさぁ! なんとも素晴らしい水魔法ショーでしたね! 準備はよろしいですかな? お捻りは手元のボックスへ!」
大きな拍手と共に、司会が前の演者の演技の終了を知らせ、大仰な声を上げる。
事前に言われたプログラムによると、次の演者は俺だ。
ドキドキと緊張する胸を押さえて、ゴクリとツバを飲み込む。
なんの緊張かって?
そりゃあ誰よりもイイ演技をして、シャルに一番すげぇ演者だと思わせるために決まってんだろうが。
例え見惚れるような華麗で幻想的なショーをする魔界一番の演者でも、シャルに俺よりイイと思われるヤツなんて嫌いだ。
(なんだろうと、アイツの一番は俺だ!)
控室に詰め込まれている間に、たくさんの一般演者を見ていた俺は、当初の目的を喪失。
拍手喝采が聞こえるたびに、「俺以外を賞賛して見惚れられてたまるか!」という思考に持って行かれていた。
『舞台に立った後、客席を見て匂いからシャルの位置を特定。そこへ向かって一心に演技を開始。これまでの拍手の量から、客はわかりやすく派手で美しい演目を好む傾向にある。魔法をメインに音と光で盛り上がりを作って、フィナーレは盛大にやるべき』
なるほど、俺の魔力量と魔法センスがイイのはこの為だったのか。
俺はぶつぶつとささめきながら、自分の無駄に器用な才能に感謝する。
大丈夫。狼形態の俺なら、人混みの中でもシャルだけの匂いを見つけることができるはずだ。
そしてベストパフォーマンスを見せつけることで、拍手をもらう。
(フッ簡単な仕事じゃねぇか……!)
脳内リハーサルは完璧だ。
やる気を湧きあがらせ、舞台の裾でスポットライトを睨みつける。
「──さてさて! お次の一般演者さんは、魔物語ではなく人の言葉を理解する、賢い魔物! 狼種のマオくんでーすっ!」
司会が呼ぶ声と共に、俺は颯爽と舞台を駆けて、中央へ飛び出した。
迎え入れる観客の拍手の中をくぐり抜け、眩い照明魔法に照らされる。
中央にちょこんと座り、すぐにキョロキョロと見回すと、正面の奥の席で愛しのアイツを見つけた。
そして同時に遠吠え──もとい、断末魔を上げて震え上がった。
「アオオォォオォーーーーーーーンッ!?」
(なんでゼオがいるんだああぁぁッ!?)
開幕の雄叫びではない。
リューオがいるはずのシャルの隣を見つめて、俺は言葉を失う。
間違いない。
あの寒々しい視線を赤茶の瞳から素面で発する男は、我が魔王軍陸軍長補佐官。
(冷血の二つ名を持つ、ハーフヴァンパイア──ゼオルグッド・トードッ!)
ブルブルと体を激しく震わせ、驚愕のあまり尖った毛皮を慣らす。
自分が幹部に選んだ部下の顔を忘れる魔王ではない。
一見すると民衆に溶け込む地味顔だろうが、顔以外の全てがノット地味な野郎だ。
ゼオはクドラキオンとは形が変わる俺のお散歩形態を知らないのか、気が付いてないらしい。
早く演技を始めろとばかりに、静かな威圧感を出している。
客のくせにどれだけふてぶてしいんだ。
今日の秘密護衛モードな俺のほうが民草に紛れられてるだろ。
ふふん。無人サークルも形成してねぇかんな。完璧だ。
勝ち誇ってみせるが、シャルの隣にいない時点で俺としては大敗を喫している。
「いいぞっ狼! てかあれ、ブラックハウンド? ダークウルフ?」
「よっ! いい声だぜ~ッ! 頑張れワンコロ!」
(クソッ! 有象無象ども! ヤジをやめろ!)
俺の吠え声を演技前の気合いの雄叫びと取った観客が騒ぐが、アウトオブ眼中だ。
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