本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
382 / 901
七皿目 ストーキング・デート

23

しおりを挟む


 ──結局。

 食べ終わるまで終始無言でこちらを見つめていたゼオは、ランチの会計を俺の分まで済ませてしまった。

 まさか付き合ってくれたお礼にと、俺が金貨を取り出すより早く支払われるとは。

 まだまだ修行が足りないようだ。
 財布を出す速度を極めなければ。

 だけどそれでは俺の気が収まらない。

 支払いを済ませてさっさと店を出たゼオを尻目に、店で出していた紅茶のお持ち帰りを買い、自己満足だからとゼオに押し付けた。

 読書タイムで、よく紅茶を飲むと聞いていたのだ。雑談の内容が役に立った。

 そうするとゼオは「貢がせたみたいで気分が悪いです」と、無表情から露骨に嫌そうにする。

 俺はいつぞやのザラ紙のメモに〝気持ちの落とし物です。私の為に受け取ってください〟と書いて、紅茶の紙袋に貼り付けた。

 流石にずっと無表情だったのにわかりやすく変化させられると、わざとだとわかる。

 笑いながらそう言うと、ゼオは静かにため息を吐いた。

「……既婚者か……」



 そうして進む、デートの下見。

 このあたりの奇術館以外のデート向けのスポットを教えてもらいながら、しばらく雑談をしつつ、二人で街を歩く。

 買い物のできる場所はどこがオススメか聞くと、衣服店やら雑貨屋などが立ち並ぶ通りに連れてきてくれた。

 アゼルはオシャレだから、アクセサリーショップには行きたいな。

 それから魔族が大好きな紅茶専門店。あそこにティーカップが売っている。

 そして魔界のペットショップ。
 あれは俺が気になる。一緒に行ってみたい。

 キョロキョロしながら通りを歩く俺を、ゼオは咎めずに、隣で歩いてくれた。

 あれこれと質問すると、ちゃんと答えてくれる。冷たいようで、そうじゃない。

 時にはゼオが寄りたいお店にも俺はついて行って、興味深く眺めた。

 不思議なものを買うんだな。魔物捕獲用の罠なんて、どうするんだろう。

 用途を尋ねると「脱走する変態アンデッドを捕獲するんです」と返ってきた。

 よくわからないが、アンデッド退治でもするのか?

 倒しても生き返ることが多いので、アンデットは大変だな。

 トラバサミをいくつも召喚魔法域に保管する姿を眺めていた俺は、ふと通りすがった一つのお店の前で、足を止めた。

「ここを見てもいいか?」
「ん、花屋ですか」

 軽く頷く。

 ゼオの許可を取り比較的かわいらしいウッド調のお店に入ると、中にはたくさんの花や植物が並んでいた。

 檻に入れられた人食いのものもあるが、一般的な観賞用の花もある。

「あった。これだ」

 俺は通りから見えた一つの花に近寄り、身をかがめて、なんとなく嬉しい気持ちでそれを見つめた。

 まだ蕾のそれは、咲いてはいない。

 だけど薄い桃色のグラデーションをした花弁が美しい、百合のような細身の花。

 それほど背丈はない。
 二十センチほどで、その半分が花だった。

 花は大きいのに茎は細くて、よく見ると風で折れそうなか弱さがある。

 珍しい花なのか、お値段は一本金貨一枚と高貴な代物だった。

「それは、シャリディアスですね」
「ゼオ」

 声をかけられ、振り返る。

 こういうところにはあまり来ないのか一人で店を見ていたゼオが、いつの間にか後ろにいた。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

処理中です...