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後話 受難体質大河勝流
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しおりを挟む「昔話をしてやるよ」
「うあっ」
軽くかぶっていた上掛けをバサッと大きく上げて、肩まで被せ直され、そのまま強く抱き寄せられる。
長い腕がするりと動いて、頭の下に潜り込んだ。腕枕である。
甘い状態で項をなでられ、たくましい胸板に額をすり寄せようとするが、角が邪魔で横になりながらだとなかなか難しい。
「ガドは今年の冬月三番で、六十七歳だぜ。ユリスは確か九十ちょい」
「どっちも還暦越えじゃないか……!」
とんでもない話を聞いた俺は、アゼルの腕の中で頭を抱えかけた。
今度から重いものは俺が代わりに持たなくては。
ちなみに冬月三番は、現代で言う暦、月のことだ。
三月である春月一番から始まり、春月二番、三番、夏月一番。
この世界は一年十二月で現代と同じだが、一年の始まりは三月で名前も違う。
「ガドは人間に盗まれかけた竜の卵から生まれたんだ。俺が取り返して、一緒にライゼンに面倒見られてたから……弟みてぇに思ってる」
──そうして語られる、ガドとアゼルの出会い。
ガドは昔、卵時代に魔界に魔物討伐にきた人間の冒険者に、親のヒュドルド──毒の竜を殺され、卵は高く売れるからと盗まれたそうだ。
魔界では弱い魔族は城で匿ったりもするが、魔物は基本的に乱獲されない限りは手出ししてない。
魔物は魔族も食べるし、その魔物の魔族が守ったりもするが基本城はノータッチ。
だが幼体や卵の生け捕りや盗みはだめだ。
向こうの戦力になると困る。
それに竜種は特に数が少なく、魔力スポットである魔王城付近に住み着き、魔族は空軍に入ることが多いので、阻止しなければならない。
「ヒュドルドは竜種でも五本の指に入る強さを持っているが、その時の人間たちはそれなりに強いパーティだったからな。一匹のヒュドルドは淘汰された」
アゼルは「その人間たちを人間国に返して卵を取り戻したのが俺だ」と、詳細を暈して懐かしそうに語る。
それから卵はライゼンさんによって、魔王城から少し北に行ったところにある沼地に住む、リンドブルムの一族に預けられた。
ガドはそこでしばらく育てられることに。
初めからアゼルと共に暮らしていたわけではない。
しかしどうやら彼は強い個体だった様でうまく馴染めず、後になって本人の希望でお城に住むことになったそうだ。
当時アゼルは、自分が持ち帰った卵から生まれた竜と言うことで、それなりに気にかけていた。
けれど他者の、それも生まれて数ヶ月、数年の子どもとの接し方なんてわからない。
なので怖がらせないよう、たまに見に行くぐらいしかしなかったらしい。
意外だ。
今のガドとアゼルはすこぶる仲良しだが……どこで打ち解けたのだろうか。
首を傾げてそう尋ねると、アゼルは渋い顔をして頭が痛いように眉間にシワを寄せた。
「悪夢だぜ……アイツ、他のやつには触りもしねぇけど、気がついたら俺にだけはスキンシップ過多で……こちとら加減がわかんねぇのに、黙り込んでても勝手にウロチョロ……ッ!」
「そうか……アゼルの力加減が完璧なのは、手加減を覚えないといけないマイペース幼児がいたからか」
「まぁな。ガドが出世して空軍長官になるまでは、たまにしか会わなかったが、そのたまにが縦横無尽と言うか……けど、ライゼンは俺とガドを一緒に面倒見てくれたからな。それでなんとなく、弟みたいに思ってんだ」
アゼルは過去を思い出したのか呆れた目をしたが、そこには親愛の色があった。
ガドがアゼルを特別だから、と言っていたのはそういう関係だからだったんだな。
魔王に対して敬語でもなく親しげに接するのは、兄のように思っているのだろう。
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