本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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後話 まだまだ、受難体質大河勝流

04(sideユリス)

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 ──初めに声をかけてきた時、見た目が好きって言ったんだ。

 はぁ? って思ったし、人間に興味もなかったし。
 それを抜いても、好きなタイプじゃなかった。

 アイツはうるさいし強引だし、デリカシーないし、しつこい。

 隙があれば抱きついたり、キスしたり、押し倒したりしたがるし。
 会ったらいっつも「好きだ」とか「愛してる」とか。

 アイツ人間でしょ?
 人間ってそういうこと、そんな簡単に言わないんでしょ?

 好きじゃなかった僕は初めから、何度も容赦なく断った。

 こういうことはさっさと返事をしないと失礼でしょ。

 そこに引き伸ばしにするとか、もったいない精神を持ち込んだら、可哀想じゃない。

 匂わせるとかじゃなくはっきり言ってるんだからね。……なんなの、その優しい目は。

 でも、アイツはちっとも諦めないんだ。本当に人間なの? って感じ。

 メンタルゾンビなんじゃない?
 そういうことって、そんな毎日馬鹿みたいに軽率に言い続けられる?

 よくわかんない。

 でもその言葉や態度で〝コイツ僕のこと好きなんだ〟って高を括り、応えてもないのにその好意を〝悪くない〟と思っている自分。

 自分が一番よくわかんない。

「僕の態度はおかしいって言うか、ふざけてるってわかってるんだけど、なんか、制御できないんだもん」

 話しながら、シャルが空になった自分と僕のカップに新しい温かな紅茶を注ぐ。

 グチャグチャの思考と自分の思い通りにならない感情に、僕は昨日から振り回されっぱなしだ。

 いや、昨日からじゃないのかもしれない。
 もっとずっと、前から、だったと思う。

 まとまらない脳ミソを掻き回すこれを、誰かに聞いてもらいたかった。

 でないと自分じゃなにを言いたいのか、どんな顔をすればいいのかわからない。

「……シャル、聞いてよ……。話すの下手だけど、僕ってお前みたいに素直じゃないから、自分の心がわかんない……」

 シャルは相槌を打ちながら、黙って泣きそうな僕の話を聞いてくれる。

「僕ってかわいいでしょ?」
「とても」
「アイツは僕のかわいいところが好きなんだよ。言い換えるとかわいいから好きになった」

 自慢だけど、僕は割とモテる。

 外見がこうなら、中身がこうでもむしろ許されるのか、ありのままの僕ってみんな結構好きみたい。

 もちろん僕は見た目に磨きをかける努力をしている。

 アイツがかわいいと褒めそやす僕は、僕がそうあるために作り上げた当然のかわいさ。

 ギシ、と軋むソファー。
 俯いた僕の隣りに、シャルが立ち上がって腰を下ろした。

 近くに人の体温を感じて顔を上げると、先を促すように青みがかった黒い瞳がこっちをみつめる。

「……アイツの隣にいた女、僕に似てたのに、僕よりかわいかった」

 僕のキツイ吊目と違って、丸くて溶け落ちそうな目と、柔らかな体。

 アイツは女のほうが好きだから、あっちのが好みだと思う。

「僕はいたい場所は勝ち取るし、いらない場所はすぐに捨てる。後悔しないよ」
「うん」
「僕はこの世の誰にも負ける気はなくて、その勝ち気とこの容姿でどんな場所ももぎとってやるって感じで生きてる」
「かっこいい」
「でしょ?」
「あぁ」
「……僕が拒絶した場所に自分じゃない人が選ばれて、あんなに息苦しくなったのは初めてだ」

 卑怯でしょ。
 こんな女々しくてグダついてはっきりしないことを考えるのって、ユーリセッツ・ケトマゴじゃない。

 なにを言おうとしてたの、僕は。
 あの時。

〝僕が好きなら、迂闊に他のやつに軽々しく触られるな〟って?

〝僕の知らないお前なんて作るな、全部さらけ出して底抜けに愛しててよ〟って?

 なにそれ、馬鹿じゃないの。

 ふざけてるよ、僕って馬鹿、馬鹿。鬱陶しいじゃん。湿っぽいじゃん。馬鹿。

『今日もかわいいな』

 うるさいよ、馬鹿。

『今日も愛してるぜ』

 黙りなよ、馬鹿。

 そういう言葉を思い出しちゃって、なにも言えなくなっちゃって。


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