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後話 まだまだ、受難体質大河勝流
05(sideユリス)
しおりを挟む「見た目がかわいいだけが好きだって、アイツにだけはそんなの嫌だ……だって僕よりかわいい子、いるじゃない……僕をまるごと、好きになってよ……」
「…………」
「ねぇ好きだとかって、アイツはなんで簡単に言えるの? 僕ってアイツには素直に言えない。怒ってばっかり。それでいっぱい拒否したのに、今更〝よそ見しないで〟って言えないよ。だって初めは本当に興味なかったもん。もういっぱい傷つけたじゃん……」
「…………」
「アイツにだけ些細なことで怒っちゃうのってなに? 気に食わないんだ。僕の知ってるキラキラして楽しくて甘くて胸がキュンキュンする感情が、アイツにはちっとも沸かないよ」
「…………」
「アイツの仕事や本心、人間国での昔のこと、あの日街に降りることも、僕は知らなくて、イライラする。なにも言わないくせにいつも好きだぜって言ってキスするのが腹が立つ。僕の言うことなんでも聞いて、罵倒しても文句言わなくて、そういうのって本気じゃないみたいで悲しい。痛くて、悲しくて、イライラして、心臓がねじ切れそう」
「…………」
「……これが恋なわけない」
嘘。嘘だ。
僕はアイツが、たぶんもう好き。
こんな些細なことで掻き乱されるようになるなんて。
それなら恋って洗脳だよ。
毎日アイツに吹き込まれたから、細胞単位で好きになっちゃったじゃない。
ほんとにもう、大嫌い。
ポスン、と頭に手を置かれて、硬い手が優しく僕の頭をなでる。
こういう時、頭がグチャグチャになったら、僕はシャルに会いたくなる。
コイツのそばは、心が凪いでいく。
恥ずかしくなるような本心を曝け出したり言葉にすることを、みっともなく思う気持ちが薄れるから。
だからシャルを連れてアイツが来た時、僕は部屋の中に入れたんだ。
「アイツ、悪くないよ。僕がこんなグチャグチャの心が気持ち悪くて、八つ当たりしちゃうから、しばらく会いたくないだけ。僕の物じゃないもの、アイツ」
「ん……そうか」
「ねぇ、アイツ成り行きであぁなったって言ってたよね。それは本当だと思う?」
「嘘かどうかは俺が決めることじゃないが……リューオはその場しのぎの言い訳を、わざわざ部屋を訪ねてまでお前にしない」
穏やかで優しい低めのローテンポな声が、僕を暖めるようになでながら紡がれる。
すると少しずつ気持ちが落ち着いて、焦燥感が薄らいでいく。
僕の魔王様への恋は、冷めた目の彼にこっちを見てほしい、孤高の存在に必死に求められてみたいっていう、下心と憧景の宝石だった。
あれはたしかに恋だった。
けれど、もっと楽しいばかりの甘いだけのモノ。
シャルはその時の僕の恋敵だったのに、誠実すぎて、愚直すぎて、一生懸命過ぎて、憎めなかった。
……羨ましいな。
彼は、透明だ。
誰の色も変えずにそこにある。自分をさらけ出すことも厭わない。
気持ちを砕けば砕いただけ、自分も砕いて精一杯返してくれる。
当たり前だと思う?
返ってこないこと、返さないこと、多くない?
僕は返さなかったことも、返ってこないこともあったけど。
現に僕はアイツが伝える好意に、わずかも返していない。
だけどシャルは返そうと動くから、きっとしばらく共に過ごせば、大多数の人が彼に好感を抱くだろう。
そうするとシャルは必ず喜ぶ。
穏やかに〝とても嬉しい。ありがとう〟と。
(……こんなふうに、やれないよ)
拗ねたような、そっぽを向く心。
本心がわからない以上、穿った僕は疑っちゃう。
拒絶されるかもしれない。
素直になんてなれないよ。
ぎゅ、と黙ってシャルに抱きつく。
引き締まった体は硬くて柔らかくはないけれど、暖かくてどっしりとブレない。
シャルは驚いていたけど、静かに僕を抱きしめてくれた。
コイツは拒絶しないって、確信できる。
だってそういう男だから。
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