本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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後話 まだまだ、受難体質大河勝流

06(sideユリス)

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「アイツがお前ならよかった。わかりやすくて呑気でアホで、僕が尖る暇がないくらいなお前ならいいのに」
「アホ……でもそれじゃあきっと、リューオはユリスを好きにはならなかったぞ?」
「なんでよ。僕、かわいいよ?」
「中身が俺なら、アゼルを選ぶからな」

 至って真剣にそんなことを言われて、機嫌を損ねた僕は、胸元にグリグリと強く頭を押し付けてやった。

「そこは〝俺が相手なら不安にさせないよ〟ぐらい言ってよ馬鹿。惚気てる場合? 僕を慰めるのがお前の今の仕事でしょ」
「そうだな……。でも俺はできる限りユリスを不安になんてさせないが、俺が恋をするのはアゼルだ。たぶんそれは変わらないと思うな……」

 神妙な顔で重ねられて、本気で考えた結果がそれなのかと、呆れた上に笑ってしまう。

 背中を擦る手が優しく、抱きしめる腕は力強く安心する。


「お前だから、誰も信じずに頑なに自分を閉ざしていた魔王様でも、上手く誰かと愛し合えているんだろうね」


 例え話だとしても、一途にただ一人だけを愛するなんて。

 お調子者からすれば、冗談が通じないと思う、ノリが悪い男なんだろうけど。

 そういう空気を合わせられない、愚直な人間。

 だからこそ、好きだと言うことに臆病にならずにすむんだ。

 好かれていることに驕らず、不安にさせないよう心を逐一口に出し、わがままや文句も受け止めてくれる。

 僕や魔王様のような、つい減らず口を叩いてしまう素直になれないタイプには、ピッタリの緩衝材だろう。


 いいこすぎて気に食わない。

 けど、気に食わないって言ったって、どうせその文句も受け入れられる。

 だから好き。大好きな友達。
 言わないけど。

 友達はいても元々個人主義で、自分からいくらでも構いに行くなんて友達はいなかった僕の、会いたくなる友達。

 眩しくて自分が嫌いになっちゃいそうなくらいだけど、コイツは僕を嫌いにならないだろうからなぁ。

 それなら、嫌ってるほうが馬鹿みたいでしょ? シャルはそういう人だ。

「お前って僕みたいなひねくれ者にとっては毒だよね、ムカつく。なんでもないようにありのままをされたら、溜まったもんじゃないよ、馬鹿」
「う……褒められたと思ったらそんな楽しそうな顔で俺のことを罵倒するなんて、気分はもう落ち着いたのか?」
「フンっ、ムカつく。まったくかわいいやつだよね、お前。斑ネズミの寝顔みたいなふやけた微笑み浮かべちゃってさ。僕の隣にいることを許してあげてるんだから、当然だけど。でも僕の次くらいに、だからね!」
「んむむ」

 ムニュムニュと右頬を引っ張ってやると、シャルは困り顔でされるがままだ。面白い。

 面白くて笑ってしまう。
 うん……今なら普通に笑える。

 一人でしゃがみこんで悶々としていたのが、前を向き始めた。

 掴んでいた頬を離し抱きつき直して、上目遣いにシャルを見上げる。

「今更好きだなんて言えないけど……〝八つ当たりしてごめん〟ぐらいは言えるかな?」
「あぁ、言える」

「アイツ、悲しそうだった。追い出したくせに、また僕と会ってくれると思う?」
「もちろん」

「魔王様が理想であんなに恋してたのに、ダメになったから鞍替えしたって笑われるんじゃない?」
「馬鹿を言うな、恋の相手は選べないだろう?」
「あははっ! うん、そのとおりだね」

 声を上げて陽気に戯ける。
 どこかで聞いたようなセリフの説得力が凄いよ。

 お前なら絶対選んだ相手を心底愛する。可能性が露程もあるなら、諦めないだろう。

「…………こんなウジウジした僕でも、上手に素直になれるかな?」

 ニコッと笑ってそんなことを聞いた。

 わかりきったことだけど、シャルに言葉にしてもらえると、僕はなんだか前向きになるから。

 するとシャルは同じようにニコッと笑って、見透かしたように頷いた。

「大丈夫だ」

 まったくなんて安心感。
 流石僕の──親友、だよね!

 僕らは笑い合って体を離し、美味しい紅茶とスコーンに手をつける。

 ティータイムの仕切り直しだ。
 ため息味の紅茶なんて飲み干して、やってやるよって気持ちを込める。

 ──あぁもう、下らないことで痛感しちゃった。

「独占欲を感じたら手遅れなんだから、諦めてそっぽ向いてないで速攻流し目誘惑でしょ。魔界一の魅惑の美少年、ユーリセッツ・ケトマゴを舐めないでよね、馬鹿勇者!」
「ふふふ、ユリスは格好よくてかわいくて、最高の美少年だ。子猫のリューオを、押し倒してやればいい」

 ──残念ながら、僕は嫉妬深くてわがままで気まぐれで嘘つきでアイツのことが好きな、一人の男だってことなのさ!


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