本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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後話 まだまだ、受難体質大河勝流

07(sideリューオ)

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 ♢


「……………」
「……………」

 ユリスに遠回しに帰れと言われた俺はシャルに後を任せ──現在。

 魔王の執務室にて、魔王をガン見していた。

 いや、ふざけてなんかねェかンな。

 俺はどうしてあいつを怒らせてばかりで求愛がうまくいかねぇのか、真面目に考えたんだ。

 そしてそのヒントを求めて、ユリスの好きなタイプドンピシャらしい魔王をガン見してんだよ。わかるだろ?

 ペンを走らせる音がいくつも鳴り響く執務室には、今、俺と魔王の二人だけである。

 宰相は「貴方様を見ていると物申したくなりますので」と、魔王から逃げていったらしい。

 理由はたぶん、あの魔王が抱きかかえてるアホみたいに結界が重ねがけられた花の鉢のせいだろうよ。

 昨日シャルが花屋に行っていたので、その時の土産なんだろう。

 が……控えめに言って馬鹿じゃねェのか、コイツ。仕事場だろここ。

「………………」

(……わっかんねぇ!)

 俺は黒張りのソファーに座り込み、らしくもなく肩を落とす。

 真剣な顔で物凄い勢いで仕事を処理しつつ、当たり前のように鉢を抱いているスペシャル嫁バカ色男が、どうして俺の愛する男のアイドルなんだ。

 ユリス、俺ァお前のことならなんだって理解してやりてェケドよ。

 こんなポテンシャルだけ高い馬鹿に惚れる意味がわかんねェ。マジで。

(……いや待て、顔か!)

 ハッ、と気づきを得た。

 ってか顔だろ? 目つきがエロいからだろ? 後、魔力量で魅了かかんのと、強いやつが好きな魔族の習性だろ?

 もうそれしかねぇ。
 それ以外なら、変えられるから構わないのだ。

 そりゃあ、俺は目つきは悪いし厳つい。
 それなりに凶悪顔の自覚はある。

 体もゴツいし、気配りも下手だし、遠慮もないし、口も悪い。

 すぐに手も出る。恋の駆け引き的なモンもできやしねェ。

 でも俺は──確かにユリスを愛してる。

 そりゃ具体的にどこが好きかって聞かれて「一番は顔、」って言った時点で、ユリスは俺に魔導具をぶっぱなした。続きもあったんだけどよ。

「…………イケメンクソフェイス、こんがり燃やしてェ」

 ケッ。いくら好みだろうが、魔王はシャルを愛してるんだろ?
 俺にしとけばいいじゃねぇか。

 お試しでもなんでもいいし、便利に使って飽きたら捨てて、俺はそうならねぇようにマジに口説けばいいんだろ?

 好きだから好きって言ってんだろうが。

「って言う愛が言い訳に思えるような疑いの種をまいちまったワケデスケドネッッ!! 俺の馬鹿野郎ッッ!!」
「うるせぇなクソ勇者。気色悪く熱視線送って来たと思ったら発狂すんなよ。だからライゼンが逃げたんだろうが」
「それはテメェが植木鉢抱きかかえて仕事してっからだろォがッ!」
「ふふん、コレは俺とシャルの愛の結晶だぜ。最早子どもだ。だから立派に育ててみせる……ッ! 俺、両親いねぇから育児とか欠片もわかんねぇけど……ッ!」
「おう、頭冷やせイクメン」

 育児じゃねぇ。それ園芸だ。

 使命感に燃える暴走ポンコツ魔王に冷めた視線を送りつつ、中指を立てる。

 が、やっぱりすぐにがくんと肩を落とし、情けなくしょげかえった。

 だって俺……これに負けてんのか……。

 どう考えてもシャルからのアクションで嬉しさとポンコツ度を比例させている魔王は、シャル以外の目から見れば残念以外の何者でもない。

 まあ、シャルは知らないんだろうけどよ。

 基本的にパッサパサな返答ばかりで、挨拶がわりに喧嘩腰がデフォルトな関係である。

 しかしそんな残念魔王より馬鹿な俺が、愛しのユリスをかつてないほど怒らせてしまったのだ。



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