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後話 まだまだ、受難体質大河勝流
12(sideリューオ)
しおりを挟む「まず俺たちとお前たちじゃ、超えてきた修羅場の難易度が違う。シャルは俺がある日、勘違いして身勝手に怒った挙句無理矢理吸血した上に、吸い逃げしても、俺を責めたりしなかった」
「はぁ」
「アイツは俺の体を想って薬効のある花を取ってきて差し出すと、嫌いにならないからって言い聞かせて、落ち着くまでずっと抱きしめてくれるようなヤツだ」
「ひぃ」
「しかも俺が一日ほぼなにも食ってないからって、昨日無理矢理吸血したばかりなのに自分の血を差し出す始末。聞いて驚け、これは付き合う前だぜ?」
「ふぅ」
「そして付き合ってからは、そりゃあえげつない。スキンシップも往来でなければ好きな時に許してくれる。俺に似合うからとちゃんと選んで、いつもプレゼントを贈ってくる。こっそり俺の好みのお菓子を探って、それを作ると多めに持ってきてくれる」
「へぇ」
「お前にいろいろと暴露されてあわや破局ってな時でも、その愛情は変わらねぇ。人違いして魔界に縛り付けていたのは俺なのに、あの森での夜、恩人が他人の自分で俺が悲しんでいるだろうって思ったって、何者でもなくても一緒にいてほしいって言ってきたんだ」
「ほぉ」
「あぁシャル、優しさを固めて人型にしたような生き物だろ? なんていじらしいんだ。お前はこの時、横で大いびきかいて寝てたぜ。大違いだ。同じ種族であるのが恥ずかしいレベルだぜ、お前魔族だろ」
「嘘偽りなく完璧な人間様だコノヤロウイケメン魔王をバチボコに呪いたい系勇者様だコノヤロウ」
「フッ、シャルの良さがわからねぇなんて可哀想な脳筋野郎だ。シャルは結婚してからも、俺をできる限り愛し続けてくれてるぜ。あのクソ絵画にしてやられた時も、シャルを信じられなくなりそうな俺が酷いことを言って怒鳴っても、懸命に一人でどうにかしようって誰にも言えずに悩んで、諦めなかった」
「いやそこまでウェルカムだったらとんでもねぇイカレ野郎だろアイツ」
「そこはまぁ、否定できねぇ。だってシャルは結果バラバ、…………兎に角そんな修羅場をくぐってきた俺は、毎日コツコツと愛されている実感を感じさせられまくってんだ」
「…………」
「そうやって信じられるように、どんな時でも愛してくれた。アイツはいつも俺が不安がる前に、わざと気持ちを口に出すんだよ。不安が恥ずかしいに塗り替えられるけど、おかげでアイツを傷つけなくてすむ」
「…………」
「俺は嫉妬深くて独占欲も強いから、それを表に出して嫌われるのが……いつだって怖い。開き直ったらなにも怖いことはねぇけど、アイツに嫌われるのだけは怖いんだ。アイツはそれをわかってくれているし、俺もアイツがわざとわかりやすくしてくれているって言うのを知っている」
「あ゛~……」
「だから昨日の夜俺が嫉妬して拗ねて我儘言った時も、付き合ってあんなンぅ」
「わかった! マジでわかったからもう勘弁してくれ長ェんだわッ!」
俺が耐えきれずに手を突き出して口をふさぐと、魔王はまだまだ語りたりなさそうに、ブスッと不貞腐れた。
不服そうにすんじゃねぇ。
俺はだいッッッッぶ我慢しただろうが。
(はぁ~……だから長くなるって察したのに、俺ってやつはなんで自分から無駄にポンコツスイッチをよォ……ッ!)
柔らかな唇から手を離し、自分の額に当てて呆れ返る。
それ全部覚えてる魔王もどんだけガチなんだよって話だしな。
……でも惚気のおかげで、コイツ等みたいにうまくいかねぇ理由は……流石に、馬鹿な俺でもわかった。
付き合う前でも、シャルは魔王を尊重していたんだ。
だから怒って無体を働いたらしい魔王がもうだめになっても、「大丈夫」って言葉を信じさせられたんだと思う。
俺はシャルの立ち位置だから、愛しているなら根気よく相手に合わせるべきだった。
押せば押すほど逃げていくユリスに合わせて、待ってやる優しさが必要だった。
好きだと言って、それに答えてもらうことしか考えてなくて……。
それが簡単にできないなんて心の話は、聞いていなかったのだ。
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