本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
446 / 901
八皿目 ナイトデート

20

しおりを挟む


 俺は立ち上がったアゼルにいいか、と前振りをして、言い聞かせるように指を立てて振る。

「あっち行ってよシャルって言うんだ」
「ハッ!?」

 アゼルはクワッと目を見開き、わなわなと震え始めた。

 だが、これを言ってもらえないと話が進まないからな。

 リューオはコレがうまくいけば、アゼルが照れくさいことも忘れて出てくると言っていた。
 なのでやりきらねばならない。

 俺は「そういう歌なんだ。言ってくれるだけでいいぞ」とアゼルに言って、さぁとセリフ待ちをする。

「っ? あ、あ、あっちいってよシャル……?」

 震えながらぽかんとしているアゼルは、とりあえず俺の頼みを聞こうと口にしてくれた。

 それに一つ頷く。

「……わかったよー……」
「!?」

 俺はセリフ通りにしょんぼりと肩を落として、くるりと振り向いた。

 そしてアゼルに背を向けて、トボトボとリューオたちの元へ向かって歩く。

「ぅ、うう……!? え、ぅ」

 後ろで呻く声が聞こえるが、振り向いてはいけない。

 台本通りに辛気臭く歩きながら、リューオを見ると親指を立てていた。これであってるんだな?

 んん……しかしこれじゃあアゼルにあっちいってと言われただけで、俺は歌を歌った意味がない気がする。

 あっちいってか、なんだか悲しいな。
 セリフなんだが、ちょっと寂しいぞ。

 いつもならアゼルは俺を抱きしめてくれるのに、俺が背を向けていてはよろしくない。

 なんて寂しいセリフだ。
 俺はお芝居は向いてないようだな。

「……な、なんで離れるんだ馬鹿野郎、どっか行くなっ!」
「うあ、」

 そうしてしょげていると突然後ろに抱き寄せられて、俺は温かいものに包まれる。

 リューオがすごいドヤ顔だ。

「俺から離れることをなんでわかるんだアホ、生涯の約束を忘れたのかアホ、ふんっ」
「ん……あぁいうセリフなんだアゼル。お前が隅っこにいて寂しかった、お茶は一緒が美味しい。昨日買ったティーセットを使おうじゃないか。アレを俺と使えばデートなんだろう?」
「うぐぐぐ……!」

 たてこもっていたのが芝居とはいえ引いてみることになると、あっさりと出てきたアゼル。

 アゼルはバツが悪そうにしながら俺を背中から抱きしめて、二人一緒にユリスとリューオの元へ歩く。

 昨日、俺の寂しいが欲しいと言っていたのを素直に口にしたので、余計に真っ赤になっているだろう。

 耳に触れるアゼルの頬が熱いからだ。

 二人の元へ行くと、リューオはふふんと機嫌よく腕を組んだ。

 アゼルは俺を離さないのでそのままアゼルの膝の上に座り、リューオたちの向かい側のソファーへ着席。

「ほれみろ、言ったとおりだろ? 不思議な踊りでメンタルポイント、MPを削りつつの押してだめなら引いてみろだ。魔王一本釣りだぜ」
「ありがとう二人とも。もうお酒は禁止だ。それに、可愛がりすぎるのも良くないんだな。俺は我慢を覚えるぞ」
「! 悪いとは言ってねぇだろっ、その、なんだ、シラフの時は許す! 俺を存分に辱めやがれっ!」
「よしよし、わかったからその言い方はもう少しまろやかにしてほしい」

 辱めたいわけではないのだ。

 そう思ってアゼルの頭をよしよしとなでていると、リューオが「機嫌取りは大変だなァ?」とニヤニヤする。

 なので俺はちょっと困り顔になって、リューオの隣に目をやった。

「すまん、俺のせいなんだが……作戦会議で俺と二人でくっつきすぎて、お前のお姫様がずっとふくれっ面なのに、いい加減気づいてあげてくれないか?」
「!? ゆ、ユリスッ! 俺が一番くっつきたいのはお前だッ!」

 ツンデレな愛する人のご機嫌取りに大変なのは、異世界人コンビの宿命なのかもしれない。

 魔界のツンデレ代表の頭をなでつつ、俺は一人笑みを漏らした。


 八皿目 完食



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

処理中です...