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九皿目 エゴイズム幸福論
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──夜。
アゼルの機嫌はなかなか直らず、それを思って笑って話しかけると余計に不機嫌になってしまい、俺は今日養ったエネルギーを消耗してしまった。
でも、アゼルは俺の腕の痣を闇の魔法でモコモコと包んで治してくれたんだぞ。
俺が嬉しすぎて最大限ありがとうをたくさん言うと、アゼルはジロリと睨みつけてきたがなにも言わなかった。
なにか悩んでいるような感じがしているからどうにか解決したいのだが、それはうまくいかないまま。今日も距離を取ってベッドに入る。
今日は月の明るい夜だ。
アゼルの背中がよく見えるので、俺にとっては嬉しい夜だ。
明かりの消えた部屋の中を歩いて、アゼルもそっとベッドに乗り上げてくる。
だが、そのまま端で眠る筈の彼は、どういうわけか俺のそばまでやってきた。
「魔王様……? どうかしたのか? もしかして抱き枕を使ってみるとかか?」
「なぁ」
「ん?」
俺のお茶目な言葉を無視した声に、俺は笑ったまま首を傾げる。
もそもそと起き上がりアゼルを見つめるが、アゼルは至って真剣な表情で俺をベッドに押し倒した。
ドサッ、と身体が元の場所に落ちる。
だが状況が理解できずに、目を丸くする。
「それは本物か?」
俺を押し倒して覆いかぶさるアゼルは、スゥと目を細めて探るような視線で俺を嬲った。
──なんだ、コレは。
頭の横に手をついてもう片方で胸元をなでられるコレは、まるで今から俺を抱くようじゃないか。
「……っぁ……」
ヒク、と喉が空気を飲み込むのにしくじった。
どうしてこうなったのか理解できずに、ついていけない。
ようやく絞り出した笑みは、少しの甘さもなく見下ろすアゼルの冷たい声で凍らされた。
「お前は俺の妃で、俺が好き。そうなんだろ? なぁ」
「っ、そう、だな。そうだ、俺は貴方が好きだ。愛している」
「……なら、約束通りそれらしく振る舞ってやるよ。化けの皮が剥がれるくらいな」
「まっ、待て……っ」
静かな怒気を含んだ言葉を用いてアゼルが、器用に片手でプツプツと夜着のボタンを外していく。
俺は焦って、その手を止めようともがいた。だが俺がいくら力を込めようとも、アゼルの体はびくともしない。
蹴り飛ばすなんてことはできないし、そうしても少しも効かないだろう。
半分ほどボタンを外したところで、その手は俺の素肌に触れる。
きっと、心臓が悲鳴を上げているのがよくわかっただろう。
俺を愛していないお前に触れられて、お前を愛している俺はドキリとする。
なんで。どうして。
そんな言葉がぐるぐると脳をかけめぐるが、理由はなにもわからない。
「魔王様、っ待ってくれ、急にどうしてこんな……っ」
「……なにもおかしなことはねえだろ。俺とお前はそういう関係だった。なら妃を抱くのは当たり前じゃねえか」
「そんな……っ」
「俺はなにか間違ってるか? 間違っているなら、お前は俺にどうしろと言うんだ? お前の目的は、望みはなんだ?」
「っ……!」
心臓を押しつぶすようにそこに触れたまま、アゼルは動かない。
愛していないと口にしてそれを否定されなかったことが、こんな乱暴な触れ方をされても高鳴る胸を戒めた。
「……あ、なたが、俺のことを愛していないなら、やめてほしい……」
なにもわかっていないまま、なにかに駆られてこうすることにしたアゼルに、俺はへらりとなんでもないように笑いかける。
アゼルは俺が笑うたびに、たまらないように苛立つ。
それに困って俺は眉が垂れる。俺の笑顔は嫌いみたいだ。
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