500 / 901
九皿目 エゴイズム幸福論
52(sideアゼル)
しおりを挟む俺は、アイツを探して焦りのままに、足早に食堂を目指していた。
アイツはお菓子屋さんをしていると言っていたからだ。
この一週間聞いた長い話では、食堂にお菓子を卸しているらしい。
部屋に戻りたくなくても、仕事なら待っていればくるだろう。
遅くなるかもしれないが、執務室では手がかりが見つけられなかったから致し方ない。
そう思っていた。
早くしなければと急いていても、それしかできない。
だが、突然キィキィと甲高い鳴き声が中庭から響いて、俺は方向を変えそっちへ向かった。
中庭には城下街にある店舗ほどの大きさの建物があった。
それに魔王専属従魔であるカプバットたちが集まって、大きな単眼に涙をためて入り口の辺りで取り乱している。
俺はどうしていいかわからないが、部下が泣いているのは無視できない。
すぐに駆け寄って声をかけた。
「オイ、お前ら……」
「! マオウサマ! タイヘン、デス! シャル、イナイ、オカシ、ナイ、ヘン! ヘン!」
人一倍ボロボロと涙を零しているカプバット──たしかアイツがマルオと呼んでいた部屋付きの従魔が、いの一番に訴える。
(イナイ──……いない……?)
ドク、と大きく胸が鼓動した。
すぐには言葉が吐けなくて黙る俺に、マルオは更に状況を話す。
「シャル、キョウヘヤイナカッタ! ダカラオカシ、ツクッテル、オモッタ。マルオタチ、イツモオテツダイスル、ショクドウ、オトドケ! デモ、デモ、オカシナイ……シャル、イナイ……イナイ……キィィ……!」
「キィ、キィ!」
「イナイ、シャルイナイ」
「マオウサマ! タスケテクダサイ!」
「クダサイ!」
「キィィ……!」
マルオの言葉に続いて、同じく手伝いをしていて交流のあるらしいカプバットたちが、パタパタと俺の周りを飛び交って訴えた。
呆然とする頭の中で、どうにか話を組み立てる。
部屋にいなかったのは俺も知っている。
だが前の自室へ行くと言っていたが、そこにもいなかったのだろうか。
そして毎朝手伝いにくると知っているのに、厨房にもいない。仕事もしていない。
しかし、アイツはそんな不実な男ではない筈だ。
だって俺が記憶喪失になっても、付きっきりでいれば治るものでもないと、笑って毎日働いていた。
「…………」
黙って、扉の中を覗き込む。
どこもおかしなことはない。荒らされた様子も壊れたところもない。
主のいないもぬけの殻で、静まり返っている。
あぁ、なるほど。
そうか。
「……アイツも、手遅れ……か」
夢の中で、俺が言っていたとおりだ。
すぐに追いかけて、謝らなければならなかったんだ。
間違って間違って、どうして俺が正解するまで待っていてくれると思ったんだ。
厨房を見ないよう振り返って、晴れた空の下へサクサクと地面を鳴らし歩く。
「マ、マオウサマ……シャル……イタ……?」
「もういない。……俺がいなくていいと言ったから、出ていったんだろ。クク、せいせいする。貧弱な人間なんて、魔界にいたって邪魔なだけ。死ぬ前に消えたのは、懸命な判断だ」
「!」
どうして──明日があるなんて、思ったんだろう。
「……記憶も、アイツも、ないほうが幸せだ」
俺もアイツも、嘘吐きなのに。
40
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
その男、ストーカーにつき
ryon*
BL
スパダリ?
いいえ、ただのストーカーです。
***
完結しました。
エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。
そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。
ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる