512 / 901
九皿目 エゴイズム幸福論
64
しおりを挟む「ほら、治療してもらったらいうことがあるだろう?」
「はぁ……はぁ……ぁ、ありがとう、ございます……、はぁ……」
「礼儀を弁えろよ? 貴様はなんだ?」
「て、天使様、の……オモチャ……です……」
「初めからそう自覚していればよかったのだ。まったく、ウスノロの人間は覚えが悪くて躾が大変だな」
メンリヴァーは狂いそうな苦痛の中、心の折れた俺を玩具に仕込んだ。
そうして満足そうに腕を組み、怯える俺を眺める。
俺はそれに一言の口答えもなくビクビクと痛みに恐怖して、求められるがままの返事を返した。
初めは嫌だ、やめてくれ、帰してくれ、殺してくれ、と騒いでいたが、そのたびに痛めつけられ俺は徐々に自己を押しつぶしていった。
痛みは生物全てが恐れる感覚だ。
危険を知らせる信号。逆らってはいけない。
そんな反抗的な憎い小虫を従順な人形に調教するおもちゃ箱に、重厚な扉をノックする音がした。
「入れ」
「……ソリュシャン王子殿下、陛下がお呼びです。魔王を天界へ呼び寄せる件で……」
ガチャ、と扉が開き、姿を見せたのは俺を攫ったあの天使だった。
俺は沸き立つ感情を殺して無反応を装い、新たな天使の登場に震える。
確か、ウィシュキス、だったか。俺を生き返らせた、命の恩人になるのだろうな。
「お父様が? ……チッ、いいところを。あの方は実の子どもの僕でさえ、なにを考えているかわからん」
「そうおっしゃらず。陛下は温厚で優れた天王でございます。陛下の申されることに間違いはありません。それに貴方様を害するものは、私がお相手いたします」
「わかっている。お父様は考えが読めないが、誰よりもお優しい。行くぞ」
「は」
天王に呼び出されたらしいメンリヴァーは、ウィシュキスを連れて部屋を出て行く。
だが去り際に疲弊しきった俺を睨みつけ、「安心しろ、これで終わりじゃない。後でたっぷり遊んでやる」と言い残して去っていった。
俺はビクッと体を跳ねさせ、泣きそうに顔をくしゃくしゃにして俯き見送る。
「…………」
自分の血で赤く染まった石畳を、強く睨みつけながら。
しばらくは、ぐったりと貼り付けにされたまま、黙っていた。
拷問部屋の中はシンと静まり返って、誰もやってこない。
そっと顔を上げて、こわごわと周囲を伺う。
「だ、誰か……誰かいないか……っ?」
すがるようにそれなりの声量で叫ぶ。
それを何度か繰り返してみたが、やはり誰もやってこない。
おそらくさっき言っていたとおり、アゼルをおびき出す作戦会議をしているのだろう。
魔界が厳戒態勢であるように、出方によっては魔王を迎え撃たなければならない天界も兵士を総動員しているのだ。
「……ふぅ」
俺はそう仮定してから、すぐに自分の枷の具合を確かめる。
ならば今が、最高の好機。
この部屋は拷問部屋で牢屋ではない。
アゼルに憎悪にも似た執着を抱いているメンリヴァーが、アゼルに選ばれた俺を痛めつける為にここを選んだ。
当然強度はかなりあっても、閉じ込めることを想定はしていない。
そして俺を捕らえてから記憶の返還、おびき出しと重要な事項が連続して、バタバタと忙しないこのタイミングが一番隙がある。
記憶の消去と俺の捕獲が終われば、後はどうにかなる。
そんな成功目前の状況が、最も油断しているはずだ。
「……天界の思い通りには、ならない」
諦めているわけがないだろう?
俺はアイツに関しては、自分でもバカだと思うくらい、諦めが悪いからな。
51
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
その男、ストーカーにつき
ryon*
BL
スパダリ?
いいえ、ただのストーカーです。
***
完結しました。
エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。
そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。
ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
スイート・スパイシースイート
すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる