本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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九皿目 エゴイズム幸福論

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 拷問中、懸命に目を走らせたところ、この部屋は聖法には耐性がある。

 俺を甚振る攻撃が漏れたり巻き添えになったりしても、どこも壊れたりしなかった。

 それに、物理攻撃にもそれなりの耐性があるようだ。
 メンリヴァーのレイピアが当たっても、やはり無傷だったからな。

 だが、完全無欠かというとそんなことはない。

 眠っていたから俺の魔力は回復していたので、バレないようににじませてみると、弾く様子はまったくなかった。

 天使を拷問する前提であり、魔法を使えない天使たちは魔力がなんたるかも不明瞭なのだ。

 魔族が聖法に明るくないのと同じ。
 書物による朧な知識だが、プライドの高い彼らは余計に魔法なんて嫌悪していた。

 そんな状況確認をしていた俺は、四肢を狩られながら考えついた脱出方法を行うべく、深く深呼吸して、うるさい心臓を無視し、覚悟を決める。

「切断。固定」

 フォン、と俺の両手の先に四枚ずつ、直径十センチほどの魔法陣が現れた。

 それを慎重に飛ばして、ズレがないようぴたりと重ね合わせる。

 魔法陣の重ねがけは、高等技術だ。
 魔力を持たない天族は目視できないだろう。

 そうしてできた魔法陣四枚を、俺の手足にくぐらせ、まずは、両手首。
 発動タイミングは任意に書き込んである。

 ──あまりやりたくないが……速さと確実性において、これが最善策。

 きつく目を閉じて、ぐっと身を固めた。

「……ふっ」

 バツンッ! と重厚なブロックカッターをおろしたような音が鳴る。

「~~~~ッ!」

 食いしばった歯の隙間から、声にならない悲鳴を上げる激痛とともに、俺の手首が二つとも切断された。

 ──痛い、痛い、痛いッ! 痛いッ!
 ──この痛みは、ついさっきまで味わっていた、一度だって味わいたくない激痛だッ!

 頭の中に警鐘が鳴り響く。
 馬鹿なことをするなと怒り狂う体の悲鳴と自分の覚悟が衝突し、唇がブツッ、と切れた。

 本来なら出血多量で死んでしまうだろう。
 けれど魔法陣の固定のおかげで、切断面から血が流れることはない。

 その間に片方ずつ枷から手の先を外して、今度は接着の陣をはさみ、ぴったりと合わせる。

 時間性の能力だが、固定で止めたものはミリ単位でも動かない。
 だからこそ元通りにすることができる。

 しかも断面は切断で切り落としたため、まったくの平面。
 接着で繋ぎ留めて身体強化をかければ、応急処置にはなる。

 そうして何度か意識が薄れ気絶しそうになりながらも、俺はなんとか、両手を自由にした。

「ひッ……い、う……うううう……ッ」

 あぁクソ、痛い、死にそうだ。
 頭がおかしくなる。

 他人に強制させられるより、自分でするほうが恐ろしい。なにごともそうだ。

 脂汗と涙が滲み、呼吸が乱れる中、召喚魔法でしまっておいた緊急用のポーションを取り出す。

 それを両手首の傷に振りかけると、ようやく痛みが引いていく。

 昔使っていたような粗悪品じゃない。
 わざわざ人間国から取り寄せてくれた、最高級のポーションだ。

 魔界にそんなものはない。
 俺のために、用意してくれたもの。

 これだけ完璧な状態であれば、最高級ポーションならどうにかまた繋ぐことができる。

 死んだ時のように突き刺さったつららと、血も流れすぎて満身創痍であれば不可能だが、今は万全の状態での致命傷だからな。

 魔法が使えると確認をしていたこと。
 切られた時に、ある意味で枷から逃れられていると気がついたこと。

 そして俺の怪我がトラウマになったアゼルの気遣いがあったのが、この逃走法を決行した理由だ。

 急ぐ必要がある。
 これが一番手っ取り早かったのだ。

 だから俺は、ガタガタとこれから襲い来る痛みに震えながらも、残りの両足を切断した。



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