513 / 901
九皿目 エゴイズム幸福論
65
しおりを挟む拷問中、懸命に目を走らせたところ、この部屋は聖法には耐性がある。
俺を甚振る攻撃が漏れたり巻き添えになったりしても、どこも壊れたりしなかった。
それに、物理攻撃にもそれなりの耐性があるようだ。
メンリヴァーのレイピアが当たっても、やはり無傷だったからな。
だが、完全無欠かというとそんなことはない。
眠っていたから俺の魔力は回復していたので、バレないようににじませてみると、弾く様子はまったくなかった。
天使を拷問する前提であり、魔法を使えない天使たちは魔力がなんたるかも不明瞭なのだ。
魔族が聖法に明るくないのと同じ。
書物による朧な知識だが、プライドの高い彼らは余計に魔法なんて嫌悪していた。
そんな状況確認をしていた俺は、四肢を狩られながら考えついた脱出方法を行うべく、深く深呼吸して、うるさい心臓を無視し、覚悟を決める。
「切断。固定」
フォン、と俺の両手の先に四枚ずつ、直径十センチほどの魔法陣が現れた。
それを慎重に飛ばして、ズレがないようぴたりと重ね合わせる。
魔法陣の重ねがけは、高等技術だ。
魔力を持たない天族は目視できないだろう。
そうしてできた魔法陣四枚を、俺の手足にくぐらせ、まずは、両手首。
発動タイミングは任意に書き込んである。
──あまりやりたくないが……速さと確実性において、これが最善策。
きつく目を閉じて、ぐっと身を固めた。
「……ふっ」
バツンッ! と重厚なブロックカッターをおろしたような音が鳴る。
「~~~~ッ!」
食いしばった歯の隙間から、声にならない悲鳴を上げる激痛とともに、俺の手首が二つとも切断された。
──痛い、痛い、痛いッ! 痛いッ!
──この痛みは、ついさっきまで味わっていた、一度だって味わいたくない激痛だッ!
頭の中に警鐘が鳴り響く。
馬鹿なことをするなと怒り狂う体の悲鳴と自分の覚悟が衝突し、唇がブツッ、と切れた。
本来なら出血多量で死んでしまうだろう。
けれど魔法陣の固定のおかげで、切断面から血が流れることはない。
その間に片方ずつ枷から手の先を外して、今度は接着の陣をはさみ、ぴったりと合わせる。
時間性の能力だが、固定で止めたものはミリ単位でも動かない。
だからこそ元通りにすることができる。
しかも断面は切断で切り落としたため、まったくの平面。
接着で繋ぎ留めて身体強化をかければ、応急処置にはなる。
そうして何度か意識が薄れ気絶しそうになりながらも、俺はなんとか、両手を自由にした。
「ひッ……い、う……うううう……ッ」
あぁクソ、痛い、死にそうだ。
頭がおかしくなる。
他人に強制させられるより、自分でするほうが恐ろしい。なにごともそうだ。
脂汗と涙が滲み、呼吸が乱れる中、召喚魔法でしまっておいた緊急用のポーションを取り出す。
それを両手首の傷に振りかけると、ようやく痛みが引いていく。
昔使っていたような粗悪品じゃない。
わざわざ人間国から取り寄せてくれた、最高級のポーションだ。
魔界にそんなものはない。
俺のために、用意してくれたもの。
これだけ完璧な状態であれば、最高級ポーションならどうにかまた繋ぐことができる。
死んだ時のように突き刺さったつららと、血も流れすぎて満身創痍であれば不可能だが、今は万全の状態での致命傷だからな。
魔法が使えると確認をしていたこと。
切られた時に、ある意味で枷から逃れられていると気がついたこと。
そして俺の怪我がトラウマになったアゼルの気遣いがあったのが、この逃走法を決行した理由だ。
急ぐ必要がある。
これが一番手っ取り早かったのだ。
だから俺は、ガタガタとこれから襲い来る痛みに震えながらも、残りの両足を切断した。
51
あなたにおすすめの小説
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
その男、ストーカーにつき
ryon*
BL
スパダリ?
いいえ、ただのストーカーです。
***
完結しました。
エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。
そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。
ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる