本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
516 / 901
九皿目 エゴイズム幸福論

68(sideメンリヴァー)

しおりを挟む



 ──誤算だった。

 まさか記憶を失ったままで、人間を部屋から追い出した程嫌っているはずの魔王が、天界から使いを出す前に現れるとは。

 それも、魔王城にある全軍のうち、城の守り手とほぼ二分した戦力を引き連れてやってきたのだ。

 ありえない。
 記憶を取り返すためだけなら、もっと早くに来ていただろう。

 たかだか人間一人の為にあれだけの戦力を持ち出すなんて、それこそ理解不能だ。
 真の目的はなんだ?

 密偵からの報告によると、手薄になった魔王城の守護は駐屯地からも集結した陸軍が固めている。

 そして天空の地である天界へ向かうことから、空軍が丸ごとここへ来たらしい。

 天界は騒然としてとにかく城へできるだけ戦力を集め、可能な限り戦闘態勢を整えることしかできない。

 時間が足りないのだ。

 記憶の返還すらできていない。
 この展開は天族の会議では、予想の中に入っていない。

 表向きの来訪の理由は〝天界の神遺物についての手紙に返事がなかったので、直接伺いに来た。空軍は大規模演習を兼ねているだけ〟なんていう、ふざけたもの。

 過剰戦力だ。
 警戒されても強行するという、無言の威圧を感じた。

 記憶に関しては、神遺物が向こうの手にある以上、問いただすことはできる。

 人間について触れないのは、そっちは物理的に証拠がないからだ。

 でなければ、降って湧いたような侵略者によって、天界の損害は馬鹿にならないだろう。

 今天界にやってきた魔界軍の頭は──この世の種族で一番過激で強力である魔族の、更に上等な連中だから。

〝魔王〟
 アゼリディアス・ナイルゴウン。

〝魔界宰相〟
 ライゼフォン・アマラード。

〝魔界軍空軍長官〟
 ガードヴァイン・シルヴァリウス。

 そんな彼らが率いる、竜を筆頭とした空を舞う強力な軍魔たち。

 どう考えてもその人選は、敵対意志を持っているとしか思えない。
 天族を葬るのに相応しすぎるじゃないか。

 空軍長官は、触れれば死ぬ死毒の竜ヒュドルド。

 もともと攻撃力で劣る天族が更に近接攻撃を封じられる上に、竜は外装の頑丈な生き物。
 これでは殺す前に殺される。

 魔界宰相は、種族能力で治癒魔法が使える不死鳥。

 魔族では稀な治癒魔法を最高難易度までこなせるうえに、種族能力であるため治癒魔法で魔力を使わない。

 つまり、死ぬまで無限に自分も仲間も回復できる。
 殺し合いが終わらないのだ。

 そして、魔王。

 本気を出すことは非常に稀だが、彼とまともにやり合えるのは、天界において天王だけだろう。

 傷を常に回復し続け、回復力を上回る攻撃を仕掛けても魔力量が異常なので、数秒で全快。

 致命傷を与えても一段階上の姿に変えることで、全てなかったことにできる。

 滅多に使わない剣は、ひとふりで周囲を切り裂く魔剣。
 なのに彼は、剣技でなく魔法が最も得意なのだという。

 不死身に近い魔王が、大規模殲滅魔法を何百と連発できるなんて、悪夢以外の何物でもない。

 純粋な戦闘力が桁違いなのだ。

 魔王とは、単体で最強。
 なにかを守ることをしないのであれば、なにより強力な矛。

 そんな生き物、ふざけている。

 まともにやり合って勝ち目がないから、人質での脅迫なんて回りくどい計画まで立て、精神面に負荷をかけてきたんだぞ。

 それが弱るどころかあんなにギラついた目で、敵地の真っ只中であり力の源である魔力スポットから離れたアウェイ──天界の城を訪ねてくるなんて。

 誰が想像できただろうか。

 本来なら万全を期してから、メンリヴァーが記憶を持って魔界へ赴き味方を装い、魔王の記憶をもとに戻す。

 そして人質の存在を明かして、天王を説得するからと言う。

 無駄に天族を刺激して人質を殺させないため、魔王だけついてきて欲しいと口八丁唆して、単身誘き出す予定だったのに。

 ──僕のものになるはずだったのに……!



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

スイート・スパイシースイート

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...