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後話 おかえり、スウィーツ。
01
しおりを挟む──アゼルの記憶が戻った、初めての夜。
俺たちは離れていた距離を埋めるようにピタリと抱き合って、お互いが見えていなかった間の話をした。
疲労と微睡みの中。二人して弱々しく、まるで懺悔のように。
なにも悪くないのに、俺にたくさん謝るアゼル。彼も同じ気持ちだったのだろう。
俺がいなかった間の話をしてくれた。
嫌いだと言った次の日のこと。どうして記憶のないアゼルが、俺を取り戻しに天界へやってきたのかも。
俺の気持ちの証人になってくれたガドは、アゼルに全てを伝えたそうだ。全てを知ったから、そうしたと。
アゼルは泣いた。
それから少し、怒った。
俺を諦めないでくれてありがとう。
でも、自分を諦めるのはやめろ。
と、言った。
俺は……俺には、難しい。
俺の話をした。一人で戦ったこと、天界に囚われてからのこと、俺が出した結論。
自分の命は諦められるが、俺はアゼルだけは諦められない。だから、俺のことはお前が諦めないでくれればいい。
アゼルは何度も何度も、強く頷いた。
一度死んだと言った時に血の気の失せたまま寒そうに震え始めたアゼルは、存在を確かめるように、俺の体を抱きしめる。
それはそうだろう。
自分が忘れている間に、俺が命の灯火を吹き消されていたのだ。
もしかしたら、二度とこうして抱き合えなかったかもしれない。俺だったら恐ろしくてたまらない。
それに……死ぬのは怖い。
もっとお前と一緒に生きていたい。まだ終わりたくない。会いたい、寂しい、怖い、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
あの感覚は、辛い。
寒くて震える。
アゼルが震え、俺も死を思い震えた。遺すのも遺されるのもいやだ。二人一緒。愛し合うことに満足はない。
俺の心臓はアゼル。
アゼルの心臓は俺。
胸に穴が空いていると、寂しいな。巡らせるポンプが亡くなったなら、そこから血潮が流れ出し、全身が冷えていく。
震える俺達は、凍える身体を温めるために、二人で強く抱き寄せあう。
そうすると、怖くなくなる。
今ちゃんと腕の中にある。
これを二度と離さなければいい。
途端に恐怖がなくなった。
だって俺はお前を離せない、お前も俺を離せない。ならずっと一緒だ。
寒い夜がきても、一人じゃなければもう大丈夫。
何度でも、乗り越えられる。
俺は諦めが悪いから、と言うと、アゼルは俺のほうが悪いと断言する。
それはまた次第に張り合いになって、俺のほうが、俺のほうがといかにして相手を諦められない頑固者なのかという話になっていく。
だから最終的に、じゃあ生涯全部使ってどっちが諦められない頑固者か確かめてみようと、まとまった。
ただでさえ共に生きていてだんだんとお互いに似てきているのに、そんなに一緒にいたら世界一の頑固者が二人になる気がする。
悩ましくなってそう言うと、アゼルは一緒にいてもお前のほうがかわいいからちっとも同じにならねぇよ、とむくれた。
ふふふ。お前はそういうところがかわいいじゃないか。
こうなると俺もアゼルも、涙なんてもう浮かべていない。
いつも通りの俺たち。
いや、もっともっと甘くて、際限なく深まった愛を交換し合う、とびきり幸せな俺たちへ。
俺とアゼルがそろうと、ハッピーエンドになる。
俺の物語は、そう決まっているからな。
最強無敵なポンコツコンビは、今宵も向かうところ敵なし。
目が覚めたら、パワーアップした甘さに胸焼けしてしまうような日常が、夜明けとともに始まるのだ。
後話 了
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