本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
541 / 901
十皿目 ワンとニャー

01

しおりを挟む


 季節差のあまりない魔界だが、激動の冬を乗り越えそろそろ暖かくなってきた今日この頃。

 俺は休日のリューオと自室で、チェスという名のオセロをしてのんびりと過ごしていた。

 名前はチェスだが、その実オセロである魔界のボードゲーム。

 おそらく元の世界ではオセロという名前だが、この世界の言葉では奇跡的にあっちにも存在する、チェスという名前がついていたのだろう。
 異世界召喚の言語翻訳も把握しきれず、そのままチェスと翻訳してしまうようだ。

 まろやかな甘みのミルクティーをお供に、俺はリューオと向かい合わせでパチパチとゲームを進める。

 だが自由な口はゲームに関係ない話──もっと言うと、リューオのお悩み相談室が開催されていた。


「シャル、猥談しようぜ」
「わいだん」


 突然脈路なく発せられた言葉に、俺はキョトンとしてオウム返しをしながら首を傾げる。

 パチ、と角の一歩手前に自分の白駒を配置。
 次にリューオが角を取れば、リューオに逆転の目はある。

「悩める俺の為に、ネコ目線で夜を語ってくれや。どこでミスったのかお泊り回避され続ける、この俺のために」

 あぁリューオ、ミステイクだ。

 リューオは角を取らずに、全く逆の空白を黒駒で埋めてしまった。俺がそこに置けば一列取れてしまう。

 仕方がないので更に違う空白にパチ、と白駒を置く。
 しかし二枚取れてしまった。これではまだまだ俺の優勢だ。

 それでええと……なんだったかな。
 猫がどうとか、ええと、猫から見た夜だな。

「猫目線の夜か? ん……、……俺は猫だにゃー。夜行性だにゃー。夜は元気だにゃー。本日のディナーはお魚がいいにゃー」
「わかりきったボケをかますんじゃねェよこのアンポンタンがァッ!」
「うぁ」

 スパコンッ! と頭を叩かれてしまった。

 なんでだ? 俺はなにも間違っていないと思うぞ。ちゃんと考えた上でやった。でも、猫の気持ちになりきれてはなかったかもしれない。申し訳ない。

 患部をさすってからカップに口をつけ、紅茶を一口飲む。リューオはブスくれたままパチ、と空白を埋める。

「猥談で夜のネコっつったらテメェ、ポジションの話に決まってんだろオイ。ノンケかよ」
「アゼルが好きだから完全にではないが……アゼルだけだからな。俺は本来女性が好きだぞ」
「そういえばそうだったぜチクショウめッ!」

 リューオははっとして頭を抱えた。

 その間にこっそりと白駒を黒駒にしておく。悩めるリューオに花を持たせてあげたいのだが、なかなかうまくいかないのだ。

 あまりに繰り返すので、いい加減俺は八百長の罪で投獄されるかもしれないな……。背に腹は変えられない。

 ちなみに男と結婚している身であり、既にあれこれ経験済みな俺だが、純然たるノーマルである。

 女性の裸体を見れば多少照れて顔をそらすが、男の裸体を見てもなんとも思わない。むしろいい筋肉ならば、筋トレ方法を聞くために話しかけていくと思うぞ?

 魔王城は戦闘力の高い上位魔族が多く、か弱い女性がそもそもあまりいない。
 特に俺が普段いるエリアはアゼルたち地位の高い者たちのいる場所なので、女性に会うことは食堂でぐらいだ。

 それにアゼルは女性が多い夜会なんかの場所には、俺の恋愛対象が女性ということを知っているので、連れて行ってくれないからな。

 魔王というのはそういうものだろう。
 ほら、某配管工ゲームのピーチな姫だって、城に匿われていたじゃないか。好きな人を閉じ込めたくなる性分なんだろう。

 まあ俺は姫ではなくただの桃が好きな男で、配管工が迎えに来ても手土産をお持ちして丁重におかえりいただくのだが。

 交通費はポケットマネーから支払うから安心してほしい。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

スイート・スパイシースイート

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...