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十皿目 ワンとニャー
01
しおりを挟む季節差のあまりない魔界だが、激動の冬を乗り越えそろそろ暖かくなってきた今日この頃。
俺は休日のリューオと自室で、チェスという名のオセロをしてのんびりと過ごしていた。
名前はチェスだが、その実オセロである魔界のボードゲーム。
おそらく元の世界ではオセロという名前だが、この世界の言葉では奇跡的にあっちにも存在する、チェスという名前がついていたのだろう。
異世界召喚の言語翻訳も把握しきれず、そのままチェスと翻訳してしまうようだ。
まろやかな甘みのミルクティーをお供に、俺はリューオと向かい合わせでパチパチとゲームを進める。
だが自由な口はゲームに関係ない話──もっと言うと、リューオのお悩み相談室が開催されていた。
「シャル、猥談しようぜ」
「わいだん」
突然脈路なく発せられた言葉に、俺はキョトンとしてオウム返しをしながら首を傾げる。
パチ、と角の一歩手前に自分の白駒を配置。
次にリューオが角を取れば、リューオに逆転の目はある。
「悩める俺の為に、ネコ目線で夜を語ってくれや。どこでミスったのかお泊り回避され続ける、この俺のために」
あぁリューオ、ミステイクだ。
リューオは角を取らずに、全く逆の空白を黒駒で埋めてしまった。俺がそこに置けば一列取れてしまう。
仕方がないので更に違う空白にパチ、と白駒を置く。
しかし二枚取れてしまった。これではまだまだ俺の優勢だ。
それでええと……なんだったかな。
猫がどうとか、ええと、猫から見た夜だな。
「猫目線の夜か? ん……、……俺は猫だにゃー。夜行性だにゃー。夜は元気だにゃー。本日のディナーはお魚がいいにゃー」
「わかりきったボケをかますんじゃねェよこのアンポンタンがァッ!」
「うぁ」
スパコンッ! と頭を叩かれてしまった。
なんでだ? 俺はなにも間違っていないと思うぞ。ちゃんと考えた上でやった。でも、猫の気持ちになりきれてはなかったかもしれない。申し訳ない。
患部をさすってからカップに口をつけ、紅茶を一口飲む。リューオはブスくれたままパチ、と空白を埋める。
「猥談で夜のネコっつったらテメェ、ポジションの話に決まってんだろオイ。ノンケかよ」
「アゼルが好きだから完全にではないが……アゼルだけだからな。俺は本来女性が好きだぞ」
「そういえばそうだったぜチクショウめッ!」
リューオははっとして頭を抱えた。
その間にこっそりと白駒を黒駒にしておく。悩めるリューオに花を持たせてあげたいのだが、なかなかうまくいかないのだ。
あまりに繰り返すので、いい加減俺は八百長の罪で投獄されるかもしれないな……。背に腹は変えられない。
ちなみに男と結婚している身であり、既にあれこれ経験済みな俺だが、純然たるノーマルである。
女性の裸体を見れば多少照れて顔をそらすが、男の裸体を見てもなんとも思わない。むしろいい筋肉ならば、筋トレ方法を聞くために話しかけていくと思うぞ?
魔王城は戦闘力の高い上位魔族が多く、か弱い女性がそもそもあまりいない。
特に俺が普段いるエリアはアゼルたち地位の高い者たちのいる場所なので、女性に会うことは食堂でぐらいだ。
それにアゼルは女性が多い夜会なんかの場所には、俺の恋愛対象が女性ということを知っているので、連れて行ってくれないからな。
魔王というのはそういうものだろう。
ほら、某配管工ゲームのピーチな姫だって、城に匿われていたじゃないか。好きな人を閉じ込めたくなる性分なんだろう。
まあ俺は姫ではなくただの桃が好きな男で、配管工が迎えに来ても手土産をお持ちして丁重におかえりいただくのだが。
交通費はポケットマネーから支払うから安心してほしい。
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