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閑話 卵
01
しおりを挟む魔王城の敷地内を流れている小川。
これは厩で飼っている魔物たちの飲料水や、彼らの体を洗う為に使う、外用の用水路の役割を担っている。
城から無断で外出できない身である俺は、広大な城の敷地内には詳しい。
よく散歩しているからだ。だからこの小川のそばもよく通っている。
それで──なにが言いたいのかというと、だ。
その小川を大きな卵がどんぶらこどんぶらこと転がってきているんだが、この場合俺はどうしたらいいのだろうか、ということである。
「……とりあえず引き上げよう。俺はおばあさんの立ち位置みたいだからな」
あたりを確認してみても人影はない。
水深のあまりない小川をひたすら転がり続ける卵が不憫に思えて、俺はセオリー通りに引き上げることにした。
成人男性である俺の腕で一抱えほどもある大きな卵は、鶏卵よりは断然頑丈そうだ。
少し力を込めて川岸に引き寄せ、ゴロゴロと転がしてほとりにあげる。
引き上げた卵を改めて見ると、真っ白な殻に鳥の翼が抱きついているような模様のある卵だ。
もちろん現代では見たことがない。
なにかの魔物の卵だろうか。
そっと寄り添って耳を当ててみると、中から殻越しにくぐもった音が聞こえた。具体的にどんな音とは、言い表しづらいものだ。
おそらく中には桃太郎……ではない、卵太郎が入っているのだろう。
そうに違いない。
だって川を流れてきたんだ。
俺は少し考えてから、きびだんごの作り方を思い出す。よし、大きくなっても旅立ちの準備は大丈夫だ。
生き物なので召喚魔法の中にはしまえない。自力で運ぶしかないな。
気合を入れて子ども一人分は重量がある卵をもう一度抱え上げ、自分の部屋を目指して歩き出す。
しかし桃太郎の桃もこのぐらいの重さなら、おばあさんは肉体年齢が二十代の、ボディビルダーだったんだろう。そうに違いない。
昔話の真相にたどりつきつつ、俺はのんびりと足を進める。
──その後。
川で洗濯をしていないことに気がついたのは、城の魔族たちに奇異の目で見られながら卵を部屋に運び込んだ、後だった。
しまったな。
物語の道筋をたどっていないので、卵太郎は生まれないかもしれない。
俺は少しだけ残念な気持ちになったのだった。
ふかふかのクッションの上に卵を安置して、ブランケットで包み、更に保温の魔法陣を魔力多めでかけておく。
「ふーむ……」
毛布の塊になった卵を、図鑑を片手に眺める。
取り敢えず俺は、魔王城で拾ったものの扱いがどうなるのか、城のお役所機関に聞いてみた。
特に魔界で大事にしている竜や魔獣の卵ではなさそうなので、そのまま俺のものになってしまったのだ。
神経質そうなメガネの男性はとても細かく教えてくれたが、俺の頭が全ては理解できなかったのでかいつまむとそういうことだ。
回転する角を持つヤギの魔物。
エアレーの魔族さんだった。
落し物の届けも出ていないらしく、このまま誰も引取りに来ないまま一週間経てば事務的に処理されてしまう。
だがこの卵は生き物なので、それだと死んでしまうかもしれない。
とはいえ城の人員はちょうど春の人事整理で下働きの大多数が入れ替わっているので、世話をする余裕はない。
そこで拾い主の俺に白羽の矢が立ち、引き取ることになったということだ。
以上の経緯で取り敢えず鳥の卵と同じように温めて保温しているのだが、まずなんの卵かがわからない。
本棚から一般的な鳥の魔物図鑑を持ってきて見比べているが、該当するものが見つからなかった。サイズもそれなりに大きいしな。
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