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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
01
しおりを挟む「魔法陣学の臨時教師を、俺に?」
「はい。大変申し訳ないのですが……」
麗らかな春の朝。
アゼルの目を盗んで部屋にやってきたライゼンさんは、気の毒なほど小さくなって、しゅんとしながら謝る。
俺はそれに大丈夫だと返してから、うぅんと頭を悩ませた。
──今回俺に依頼された仕事とは、出張である。
場所は魔王城から東に馬車で三時間程行ったところにある、学園都市ディードル。
そこで一週間、臨時教師として魔法陣学を教えるというものだ。
その街にある魔界立ディードル魔法学園は、魔界でも名門の様々な魔法を教えるそれは大きな学校らしい。
しかし先日教師がノイローゼになってやめてしまったそうだ。
今は田舎で畑を耕しているとか。
俺もアゼルも持っていて、アゼルなんて自分のコレクション全てにホイホイとかけるものだから忘れがちだが、魔法陣スキルはレアなスキルである。
魔法学園は魔界の貴族の血縁者も通うような、学園そのものが都市化している名門校。
授業に穴が開くのは、学園経営者としてもよろしくない。
更にその生徒たちの親が強大な魔族だと、めんどうごとが目白押し。
文字通りの意味でモンスターペアレントが乗り込んでくる。
あらゆる困難を予想した胃痛に震える魔王城の学園担当者が、正式な教師を捕まえてくるまで、急遽臨時の教師を探すことに。
そんな時間も人員に余裕もない中で白羽の矢が立ったのが、俺だったというわけだな。
おそらく人間国に現存するほぼ全ての魔法陣を叩き込まれた上に、実戦での使用も手馴れている人材だ。
そして時間も都合がつくぞ。またと見ない好条件である。
俺としてはいつもお世話になっているライゼンさんに恩返しのチャンスなので、一も二もなく頷きたい案件だ。
城にも魔法陣を張る専門の人たちがいるのだが、数が少ないので当然余裕はない。
それにただ使えるだけでなく、教えられるレベルで様々な知識が要る。
となると、俺が断ればかわりはいないのだろう。
だからこそ俺が言いよどんでいる理由を全てわかっているのに、ライゼンさんはこの話を持ってきたのだ。
──しかし……一週間……俺が城の外へ、か。
「「アゼルが……」」
二人同時に悩ましい声をあげて、脳裏に同じ一人の人物を思い浮かべた。
そう。前提として──アゼルが自分の目の届かない範囲への俺の外出を、認めるわけがないのである。
それも一週間毎日だ。
時間にすると日中にあるその授業だけなので夕方までには帰って来られるだろうが、アゼルからすればそういう問題ではないだろう。
一応本来部屋を用意してもらって泊まりで一週間、が一番いいのだが……うん。無理だな。
それは絶対に不可能ということで、ライゼンさんが送迎案をゴリ押しでつけたらしい。
俺としてもそれはありがたい。
電話なんてものがない世界なので、一週間も離れたままアゼルの様子がわからないなんて、寂しくて萎びてしまう。
俺は萎びながらも、心が離れていなければそれなりに耐え忍ぶのはなれているので我慢ができる。
が、問題は俺たち二人が頭を抱えるほど、我らが魔王様は断固離れないということだ。
大げさではないぞ。
アゼルに知れたら「学園を壊せば臨時教師をしなくていいんだろ?」なんて言い出して、魔界の重要都市を更地に変えかねない。
なぜって、実際変えたことがあるからな。
その時はまた違う話だが。
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