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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
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しおりを挟む「俺の故郷ではありふれていたし、もっと美味で繊細なお菓子がたくさんあったんだが……」
「もっと!? お妃様の住んでいた異世界は、甘味の神がいらっしゃったんですか……!?」
「神様のように美味しいものを作る職人さんたちはいたな。甘いものは幸せになるだろう? そう思えば、きっと彼らは神様だったのかもしれないな……うん、神がいた」
「ひええええ……! す、すごい! すごいですね!」
ドラゴン型のビスケットを手に持ったまますごいすごいと感動するキャットに、俺はしみじみと頷く。
そうか、現代のパティシエさんたちは神様だったのか。
だからあんなに美味しいものを作れるのか。納得だ。
現代でも案外身近に神がいるんだな。
キャットは感慨に耽る俺に深々と頭を下げてから、ようやく一つ目のビスケットを口の入れた。
そしてにへら、と顔全体を綻ばせて幸せそうに咀嚼する。
「美味しいです! サクサクします! おお、こっちはマーメイド型なんだなぁ……! うまいぞ!」
「ふふふ、ありがとう。美味しいと言ってもらえるととても嬉しい」
「はい! 最高です!」
美味しそうに食べてもらえるのが嬉しくて、もっとどうぞと勧めていくと、キャットはニコニコ笑いながら全て平らげてくれた。
甘いものを食べながらお互いのことを話していると、そこに緊張感なんてものは存在し続けられない。
いつの間にか笑い合って、打ち解け合っているのだ。
「ごちそうさまです! うーんうまかった。甘味すげぇ!」
全部食べ終わると、改めて美味しかったと言ってもらえた。
自分の作ったものが褒められると胸が温かくなる。
だが空になった袋を見てキャットは青くなり、続いて涙目になってしまう。
口元に食べかすがついたままだ。
「す、すみません……! 俺が一人で全部……!」
「ん? いいんだ。俺は嬉しい」
「でも……」
「それより、お菓子をつまみながら話をするのは楽しかった。どうだろう? せっかく縁があったのだから、仕事だけじゃなく仲良くしてもらえればもっと嬉しいと思うんだが……」
「!」
俺は空の袋をしまい、どうにか場を緩めてから言いたかったことを言えて、反応を伺うようにキャットを見つめた。
強引だっただろうか。俺がもっと和み系だったらよかったんだが……。
肩をすくめる俺に相対するキャットは、目を丸くして固まっている。
その様子にやはりだめか、と思った矢先。
「むふぁっ」
「んっ?」
目の前でバシッ! と自分の頬を強く叩いたキャットは、頬を押しつぶしたまま潤んだ目元を垂れさせ、食い気味に上体を前に出した。
「おおおっおうぇふぇよひぇへぶぁ!!」
「っふっ、あはは、っそ、その顔はやめてくれっ、んっふふっ」
「だっれ、にっににゃへふぇひまいまふぅ……!」
よかった。受け入れてもらえたぞ。
けれど某闇医者漫画の助手の少女のように、真っ赤な両頬を押し潰して近づいてくるキャットが笑いを刺激して、俺はしばらく笑いを堪えて震える羽目になる。
頬がにやけるのを耐えるキャットとそれによる笑いをこらえる俺とで、笑顔があふれる和やかな空気を連れて空をかけていく馬車。
彼と一緒ならば、きっと楽しい一週間になるだろう。
高鳴る胸の予感を抱いて、気付けば俺もはじめての教師業への不安がどこかへ消えていたのだった。
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