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閑話 卵の中
01(sideタロー)
しおりを挟む「おはよう、卵太郎。今日は良い天気だ。良い天気というのは、空が青くて太陽が温かい日のことだぞ」
コトン、と動く。
おはよう。
これは朝の挨拶というもの。
私はこの声に拾われて、初めて知った。
空というものが青い色をしていることも、その空に浮かぶ太陽というものが温かいことも、この声が教えてくれた。
声の主は時間を見てはころころ私を転がして、中身が固まらないようにしてくれる。
ほんとはもう大きくなっているから、それはいらないんだ。
だけど私は、ころころされるのが好き。
ころころするのは、声が中身が固まらないようにって、私を心配しているから。
言葉はね、実は私が元いた場所で覚えてたんだ。
私が生まれたらどうするかも、そこではよく聞こえていたんだよ。
そこは寒かった。
「シャル、毛布が余ってたから、タローにやる。捨てるよりマシだからな」
「ん? ふふふ、流石。優しい魔王様だな」
外で声がまた増える。
この声も、最近近くで聞こえるようになってきたもの。
この声は〝まおうさま〟という名前なんだね、ふむふむ。
いつも私を世話してくれる声は、〝しゃる〟。ふむふむ。
そして私は〝たまごたろー〟というみたい。たろー、これはかわいい名前、嬉しい名前。
言葉を覚えて知ることは、あんまり好きじゃなかった。
なのにしゃるとまおうさまの声は、とっても好きだなぁ。なんでだろう。
しゃるがまおうさまを呼ぶとき、なんだかあったかい。
まおうさまがしゃるを呼ぶときも、なんだかあったかい。
今日は毛布をたくさん巻いてもらった。
えへへ、たろーもあったかい。
ここは、寒くないね。
「──それでな、こっそり驚かせようとお菓子を持って執務室を訪ねると、アゼルが女性の口説き方という本を読んで、その練習をしていたんだ」
コトンコトン、と揺れる。
しゃるはいろんなことを話してくれるけど、出てくる名前は一緒がおおい。
あぜる、らいぜんさん、がど、ゆりす、りゅーお、それからぜおと、まるおと、最近はきゃっと。
あぜるというのは、まおちゃんのこと。
しゃるはまおうさまはかわいいって言うから、まおちゃんにしたよ。へへへ。
しゃるがかわいいって言うのは、まおちゃん以外はゆりす。だからゆんちゃん。
りゅーおは凶悪、らしいから、ええと……悪い子だね。がおがお。
がど、はりゅーじんさん。
りゅーは竜、とってもおっきいの、かっこいいから、がどくん。
らいぜんさんは、さいしょーさん。偉い人、それからおかーさん。ままなんだって。
みんなに囲まれるといつも楽しそうなしゃるは、今日は少ししょんぼり。
「読書はいいんだが……誰かを口説く予定があるみたいで、ちょっぴりモヤモヤするだろう? それにとっても熱心に読んでいて、顔が赤かった。照れていたんだ」
声がしょんぼりしている理由は、まおちゃんがなにかしたからみたい。
むむむ、おこらないとだめだよしゃる。
大人はいつも怒るものでしょ?
「でもアゼルのことだから、口説かないといけない理由ができたんだと思う。見なかったことにして、毎日アイツの練習をそっとしているぞ。……本当はちょびっとだけ、いやだ。俺なら口説かれなくても、いつもアゼルに恋しているのに」
まおちゃんのモヤモヤを見ないことにしたしゃるは、モヤモヤが嫌だからしょんぼり。
私はしゃるのしょんぼりが嫌だから、卵をゆらゆら。
しゃるは見ないことにしてばかりなんだよ。私に言うみたいに、まおちゃんに言えばいいんだ。
そうしたらまおちゃんは、叱られてごめんなさいをすると思う。
私は卵だけれど、まおちゃんがしゃるに敵わないのは知っているんだ。
そのお話をするけど、これはナイショだよ?
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