本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

06(sideアゼル)

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 いやしかし、シャルに思考を持っていかれたが、その前の昔の俺が不埒な目で見られていた件もなかなかにアホらしい案件だな。

 そんな情報は初耳である。華奢だった頃は女扱いされる側だったらしいこと自体はなんとも思ってねぇけどよ。
 なぜなら俺の括約筋に勝てる一物を持った魔族が、いる気がしないからだ。

 それならなにが不満なのかと言われると、ただ一つ。
 俺でやらしいことをすんのが許されてるのはこの世でシャルだけだってのに、死に急ぎ魔族が多かったことがいただけない。

 妄想だろうがなんだろうが、俺にエロ目的で触っていいのはシャルだけだ。俺で妄想していいのもシャルだけだ。シャルの許可を取れ。俺の全ての権限はシャルにあるぜ。当然だ。

 腕を組み、フン、と鼻を鳴らす。
 まあ過去のことだから不問にしてやる。今の俺にそういうことを考える輩は全くいないので、未来でも起こらないはずだ。

 ちなみに、今の俺に容姿と中身込みで心底からかわいいと言ってくるのは、シャルだけである。

 アイツはたぶん、タラシの国のナイトだぜ。
 でも現状、俺専用のエプロンが似合うお嫁さんである。ふふん。あげねぇぞ。永遠に俺のだ。

「ゴホン。少々脱線いたしましたが……そういうわけで、私に女装は勘弁してくださいませ。ユリスのように特に気にしていない、むしろカワイイ系上等な子なら構わないでしょうが、そういう意図がない私が違和感なく女性に見えるパターンはマズイのですよ……! 私、断固女性が好きです」
「なるほど。そんな言い方だと俺が男に好かれてぇとんでもないふしだらな男みてぇだが、それなら仕方ねぇな……。お前のメンバー入りは勘弁してやろう」

 自分にも火の粉がかかっていた時期があったという衝撃の事実も手伝って、仕方なく諦めることにした。

 するとライゼンはホッと一安心してクッキーを摘もうと手を伸ばし、テーブルにそれがないことに気づいて二度見する。
 バカめ。シャルのクッキーを俺の目の前で放置するのが迂闊だぜ。

「が、こうなったら別のメンバーを捕まえねぇとだな……」

 俺がこういうわがままを言える部下は、限られているのだ。
 本気で怯えたり、本当は凄く嫌がっている的な奴だと困る。

 シャル関連は全精神をシャルに向けているのでどうにかわかりつつあるが、他のそういう複雑な裏の感情が汲み取れない。まだまだ難儀な魔王だぜ。

 そうやってどうしたもんかと腕を組んで悩む中──見計らったかのようにコンコン、とノックの音が響き、執務室の扉が開いた。

「失礼する。今月分の空軍寮維持費の書類を持ってきたぞ。チッ。会計部に不備があったせいでこんな過疎地に直接来ることになったのだ。至急決済しろ」
「キャット副官。魔王様や宰相様はポンコツモードじゃない限り仕事をちゃんとする人たちなんですから、そういう嫌味な言い方はよくないですよ」
「ハンッ! 嫌味を言っているのは会計部のノロマに対してに決まっている!」
「ああ、それなら存分に」
「まったく。貴様だって普段から陸軍長官を氷漬けにして会計部の新人をついさっきも血抜きしていたくせに、どの面下げて俺に意見しているんだ? クソ虫が。あと急に話しかけるなッ! 耳が腐り落ちるッ!」

 そして刺々しい口調がデフォルトな声に淡々と答えるクールな声のやり取りを招き入れると、扉はバタン、と閉じる。

 入室者は、魔王軍の毒舌副官コンビだった。
 肩書き通りの冷血漢陸軍長補佐官ゼオと、魔王である俺に対しても容赦なく罵倒を飛ばしてくる、空軍長補佐官キャットだ。

 俺のセンサーが、キュピン! と反応。

 そうとは知らないゼオはいつも通りの無表情でキャットをジロリと睨み、わかってないな、とため息を吐く。

「クソ真面目なくせにクソ口が悪いな、相変わらず。スケコマシやミジンコと魔王様たちは対応が違いますよ。当たり前でしょう?」
「貴様も相変わらずボーダーライン以下の扱いがクソ悪いな。血が凍ってるんじゃないか?」

 ゼオの言葉に胡乱げな目を返したキャットは、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
 こいつ等はたまに一緒にいるのを見かけるが、キャットの毒舌がゼオにはマシマシだ。

「……クックック……」
「……あぁ……悪い顔をしてらっしゃる……」

 センサーを反応させつつ二人が書類片手にやってきたのをじっと凝視していた俺は、降って湧いた代打の存在に、ニヤリと笑った。

 魔王顔と言われる俺の笑顔を見てライゼンが額に手を当てるが、なんのその。
 大丈夫だぜ。俺の知る限り、こいつ等の仕事はあんま立て込んでなかったかんな。

 目を細めて数度瞬きすると、普段は抑えているちょっと恥ずかしい能力──魔眼が発動し、二人はビクッと一瞬震えて硬直した。


「よし、お前の代わりのメンツを確保だ。ライゼン、俺とこいつ等は明日休みを取って、グループ対抗女装コンテストに出場するぞ」
「「はい?」」
「やっぱり……。まぁ魔王様だけを放逐するのも私が出場するのも断固阻止ですから、背に腹変えられませんね……」


 ふふん。
 話のわかる男が腹心で、俺はいつも鼻が高い。

 ──こうして魔王城即席女装ユニット〝KM(カワイイ魔王)withF(副官)〟が結成され、いつも通りのハチャメチャが幕を開けるのであった。



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