本日のディナーは勇者さんです。

十三皿目 ラブリーキングに清き一票

０８

　いや、いや。わかっている。
　大丈夫だ。俺は無駄な心配をしているんだろう。

　アゼルは不実な男ではないし、なにか用があって話しかけただけに決まっている。信頼しているので、浮気は絶対にしない。

　しかし浮気関係なく様子がおかしいことは確実なのだ。
　アゼルは考え中や仕事中でもなければ、いつもすぐに俺の存在に気がつく。これは本当だ。

　けれど俺がそばで見つめているのに気づかなかったアゼルが、もうお前なんか眼中にないんだと言っているようで、邪推してしまった。

　……まあ、それは俺の妄想で、きっとそうじゃないとも思うけどな。
　他にもいろいろと根拠になるエピソードはあるが、それもきっと、俺の考えすぎなんだ。……うぅ……。

「この間だって、今度城下街へ買い物に行ってきてもいいか？　と聞くと、物凄く棒読みでそっけなく『別にいいぜ』と言ったんだ。前は止めてもいいか？　と聞いてくれたのに。それで知らないうちに、すね毛がツルツルだろう？　浮気疑惑の真相もそんな最近の行動も、なにも話してくれないなんて……俺はもう、愛想を尽かされてしまったんだろうか……」
「ぴぃ……しゃる、まおちゃんつるつるだからしょんぼりなの？」
「あぁ、ツルツルだからしょんぼりだ」

　こんな情けなくも恥ずかしい弱音を誰かに相談できないので、なにもわからないだろう幼い娘相手にショボッと打ち明ける。

　威厳のないお父さんに、優しいタローはだいぶスムーズになってきた人語で「わたしふさふさだよ」と翼をわさつかせて慰めてくれた。
　癒されすぎたので頭をなでた。かわいい。

　もちろん俺が酔ってやらかしたことについての謝罪はたくさん、それはもう懸命にしたぞ。

　それについてはキチンと言葉にして許してくれたんだが、下がった好感度と一度でもしてしまったことへの不信感は戻らない。

　おそらく、そのあたりが関与しているんだろうな。

　束縛や嫉妬をする気も湧かなくなってしまった。俺としては、こういうことだろうとあたりをつけている。
　誠実なアゼルのことだから、愛情が冷めたという自覚がない可能性が濃厚だ。

　それでもムダ毛を処理した理由にはならないのだが、それはおいおい考えるとして。聞いても教えてくれないからな。

　兎に角こうなったら、自力を磨きつつ、もう一度低迷した好感度を上げなおして、俺がいかにアゼルを愛しているかということを伝えなければ。

　タローのかわいい慰めにより気を持ち直し、ほんのりしょぼくれつつも意気込み新たに気合を入れる。

　俺はメイドさんを超えるかわいさを目指しつつ、心からの愛をいつもよりたくさん伝えることにした。

「できたよう～！　しゃる、まるつけて～！」
「よしきた。今日こそはなまるをもらえるかな？　タロー」
「きょうはじょうずっだよ！」