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十三皿目 ラブリーキングに清き一票
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──に、したのだが。
「……ふむ……」
俺はタローをお風呂にいれてワシワシと髪を洗ってやりながら、娘に見えていないことをいいことに、渋い顔をする。
どうもおかしい。
いや、タローは今日もはなまるを貰えなかったんだが、そうじゃなく。
なぜか日が暮れて外が暗くなっても、アゼルが帰ってこないのだ。
うぅん、どうしてだろう。今日は遅くなると言っていなかった気がするのに。
いくら悩んでも時だけが過ぎ去り、朝の出来事が余計にわからなくなってきた。んん、もしかして俺が忘れているだけか? そうかもしれない。
「タロー、お耳聞こえているか?」
「だいじょぶなんだよ~。あわあわもめにはいってないよ!」
「よしよし、ちゃんと目をつぶっていて偉いぞ。そしていいこのタローに聞きたいんだが、今朝……まおちゃんと俺は、いつも通りだったか? パパは、普段と違うことを言っていたか?」
「ん~? まおちゃんとしゃるは、いつもとおなじ! まおちゃんおしごといくのやだって、もだもだしててね~。でもぎゅーして、ちゅーして、ばいばいってしてたっ。わたしともぎゅーしてくれた~」
「そうか。いつも通りだな」
思い返すほど自分が間違っている気がしてタローに確認を取るが、俺の記憶と相違ない答えが返ってきた。
ふむ。記憶に間違いはないみたいだ。
確かにアゼルは今日も俺を抱きしめ、キスをして、出る時間が近づくにつれ親の敵のように時計を睨み、仕事に行くのを嫌そうにしていた。
ザバーッとタローの髪に湯をかけて泡を綺麗にすすいでやりながらホッと一安心し、改めて悩ましく唸る。
「となれば……やはり、これは臭うぞ。破局の危機かもしれない」
「はきょく?」
「あぁ、ええとだな、シャルとまおちゃんがバイバイだ」
「!? はきょくだめーっ!」
「俺もだめしたいのだが、悪いのは俺なんだ」
タローは破局の意味を知って振り向き、必死に俺にしがみついてうるりと涙目のまま叫んだ。
そうだな。俺とアゼルが別れてしまえば、タローの親権で揉めるだろう。
親の不仲は子どもにとってトラウマ級の大事件だ。人格形成にも関わる。かわいいタローの為にも、アゼルには早く帰ってきてほしい。
……それに、俺にとってもトラウマ級の大事件なわけで。
ふう……駄目だ。平気な顔は得意だが、面白くないものは面白くない。アゼルが変だと日々がつまらない。
ひっしりとタローと抱き合う俺は、午後に決めた覚悟にプラス、アゼルが帰ってきたらどうにか探りを入れることにした。
「うぇぇ! はきょくやだーっ、みないふり、めっでしょぅっ」
そうと決まれば──まずは、この鼻水までたらして涙腺が崩壊し始めた娘を、なんとか安心させなければ。
「まおちゃんはやくガンガンしようっ、まおちゃんガンガン~っ!」
「あぁっ、よしよしタロー。ガンガンはよくわからないがシャルがやるから、ほら、鼻ちーんするんだ」
「ちーんっ、ずびび、ふぐ……っ、ぐす、しゃ、しゃるぅ~っ! ガンガンしたらちゅーしてぇ~~~っ!」
「うん、うん、もちろんだとも。俺が悪かった、不安にさせるようなことを言ったな。ガンガンしてちゅーするから、タローもにこってしてくれないか? ん?」
「うぶぇぇ、っうぅ、わたし、にこってするから、まおちゃんガンガンしてね……っ?」
「わかった、俺に任せてくれ。……ちなみにガンガンってなんだ? 月刊誌か?」
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