本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

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 ボーダーライン下には永久凍土でも、認めた主には付き従う。

 そんなゼオなら、女装コンテストでの優勝なんて任務も無表情で淡々とこなすだろう。

 容赦ない彼は、きっと見事に審査員を打ち取るに決まっている。

 素直で明るくウブなキャットなら、魔王であるアゼルに頼まれれば「はい俺で良ければ喜んで!」と笑顔で頷くのだ。

 任務が優勝なら意気込んで、彼なりにかわいさを出す。キャットはいいこだからな。

 つまるところ、真面目に優勝を目指すハイクオリティの彼等は、女装男子を見る為に集まった魔族たちに絡まれないともしれないわけだ。

 ──い、一大事だぞ……! 全員が女装男子と言ってもユリスのような美少年趣味でもなければ、回避できない事案だ!

 俺の中の焦燥メーターがグングンと上がって止まらない。
 アゼルもゼオもキャットもみんな男にキャーキャーと言われ、あわよくばを狙われている想像が着いている。

 リューオ曰く、身分を隠してお忍びだと言っていたらしいから、みんな肩書きと言う印籠を持ってないらしいからな。

 男なのでポロリする胸がないと思うが、やましい目で見られるなら胸筋でも俺はNGだ。

 焦り始めた俺に、グウェンちゃんはウンウンと頷く。
 リューオがそれをギロリと睨みつけるが、グウェンちゃんには暖簾に腕押し。

「まぁ、そう怒るものじゃないぞ? 勇者。女装なんて、恥ずかしいことでもなんでもない。妃は行く気満々だよ? 彼を放って私と二人きりにしてもいいのかい?」
「アァッ? ンなことするぐらいならテメェをミンチにしてシャルを送り出し、俺は平和に覗き見して、狼狽える魔王を笑ってやるに決まってんだろッ!」
「あははっ。格好ぐらいで怖気づくなんて、勇者は繊細なのだなぁ。何事も楽しむ余裕がないと、恋人にフラレてしまうよ? まぁ、度量の深さは人それぞれか……。……ナイルゴウンは全力を尽くしていたが、敵前逃亡も勇敢な選択肢さ」
「は? 敵前逃亡……? ──じょ、上等だオラァッ! 俺は逃げも負けもしねェしフラレもしねェわド畜生がッ! やってやるぜ衣装持ってこいよテメェッ!」

 リューオは火をつけられ、今にも噛みつかんばかりの形相で唸る。

 俺はハラハラとアゼルたちの安否を思いオロつき、グウェンちゃんはにへらと笑って、子どものように瞳を輝かせる。

 ──そんなわけで、グウェンちゃんという世界一の快楽主義者により、見事全員が女装に前向きになってしまった。

 グウェンちゃんは狂奔の天使だ。

 俺たちは気がついていないが、彼の提案に心が同意すると、目的に向かってしゃにむに走り出してしまう、厄介な能力。

 要するに「そうかもしれない」と思うと、ついつい口車に乗ってしまう力なのだが……。

 それは大抵彼の破滅願望に使われることとなるので、今回も知らぬ間に大いに巻き込まれたわけである。

 女装姿の天王と魔王が顔を合わせれば、ひと騒動起きることは明白なのだ。

 どうにか回避できればいいが……どうなることやらの三人組であった。



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