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十三皿目 ラブリーキングに清き一票
31(sideゼオ)
しおりを挟む──それからどうしてここにいるのかと尋ねたゼオが聞かされた話によると、こうだ。
主がオカ魔だらけの女装コンテストに出ると聞いて、貞操を案じ、ひそかに見守りに行こうと思った。
しかし女装をしないと観客にはなれないと聞いて、どうしたものかと悩む。
するとたまたま属国になったのでそれ関連をマメに報告しに来ていた天王が、たまたま話を聞いていた。
おかげで面白おかしくかき回されてしまい、結果、トンデモ衣装を着せられた勇者がキレて、二人で殺し合いをし始めたのだ。
だが、このままではコンテストが終わり目的を果たせず、シャルは部屋を破壊されただけになってしまう。
なので通りすがった空軍の竜人三人組に眠る娘を見ていてもらえるようお菓子で交渉し、そのうちの一匹の背に乗せてもらい、ここまで飛んできたらしい。
「本当はカツラをかぶっていたんだが、飛んでいる間にどこかに落としてしまってな」
そう言って、シャルは不安そうに髪を触った。
髪が短いと女装にならないのではと思っているみたいだが、それがあってもそうは見えないので、構わないだろう。
「一応巫女さんの衣装なんだが……さっきから俺を見ている視線が、いくつかあったんだ。人間の匂いを薄れさせるためにオルガにグリグリすりついてもらったのに、やっぱりどこかおかしいのか? 格好は自分でもちっとも女性には見えないことはわかっているぞ」
シャルはまるでわかっていないように自分の格好を見るが、そうじゃない。
過去の話だとは言え、一度見てしまえば多少そういう意識のあるゼオからすると、別のベクトルでよろしくなかった。
彼が身につけているのは、紅白の和服だ。
百八十と少しある自分の身長と大差ない彼が、いつも通り背筋のしゃんと伸びた姿勢のいい立ち姿でそれを纏う。
すると端正な面立ちと黒い髪が映えて、女性の装いだとは思えないし、よく似合っていた。
それがさらに竜の背で乱れたのか、胸元がはだけ、人混みに揉まれていた為やや汗ばんだ肌を晒していると、たしかに美味しそうである。
別に性的な意味でなく。
メシ的な意味でだ。
周囲の魔族はゼオの暴君ぶりに勝てず逃げ出したため、現在ゼオたちの周りに、あまり人影はない。
香水臭い生き物がいなければ、鼻の効く種族である自分にとって異世界人のシャルの香りは、メシ的な意味で美味しそうなのだ。
まぁ、オカ魔たちと同じやましい意味が全くなかったかというと、ノーコメントとさせてもらおう。
主と一戦交えたくはないのだ。
普通に好みの人物がエロティックな姿を晒していたのでムラムラしたという、シンプルな理由だからな。
沸き立ちかけた恋愛感情は、あの日綺麗にアバラと一緒に折れましたとも。
「匂いはある程度、誤魔化せてますよ。ここ、魔族のごった煮で香水臭いですし。格好も……自信満々なドギツイのしか溢れてないので、俺はアリですね。全くかわいくはないですけど、女装としておきましょう」
「それは良かった。ふふ、ゼオはお疲れ様みたいだな。俺の旦那さんに付き合ってくれてありがとう」
ゼオはいつもと同じ無表情で言ったつもりなのだが、シャルは滲み出る疲労に気づき、申し訳なさそうに微笑んでそっと頭をなでてきた。
誰の頭でも癖でなでる彼でも、普段はゼオの頭をなでたりしない。
自分で言うのもなんだが、弱ることがないからだ。メンタル強度は凄まじい自負がある。
だからこれは、初めての子ども扱いじみた労りだった。
スケコマシ上司につけられた頭の飾りがシャラシャラと揺れて、ゼオは静かに脱力気味に腕を組む。
「ヤバいな……。毒蜘蛛ばかり見ていたから、ダンゴムシの素朴さが身にしみる。静かなまともって大事ですね」
「あはは、そうか。地味な俺は魔族と比べると、大人しいかもしれないな。だけどスネ毛は剃っているんだぞ?」
「ツルリとしているくらい、あなたの旦那さんに比べればかわいいものですよ」
──なるほど。移動型癒やしスポットの力とは、こういうことだったか。
魔王城のくだらない噂話なんて興味はなかったが、それだけは信じることにしたゼオだった。
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