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十四皿目 おいでませ精霊王
07(sideアゼル)
しおりを挟む肩程までの長さの青みがかった黒髪を後ろで一つに纏め、歩くたびにそれが揺れた。
透き通るようなアイスブルーの瞳を細めて人好きのする笑顔を見せる、人懐こい愛嬌のある美形の男だ。
グレーを基調とした正式衣装に身を包み、白のマントを翻すコイツこそが、霊界の王。
「俺とお前の仲だろ? な」
精霊王──アマダ・サアリオッツ。
絶対的な物差しである魔王紋が選ぶ魔族と違い、精霊王になれる精霊族と言うのは、家柄と能力で決まるのだ。
自然の力を司る精霊と言われている四大精霊の中から、力の強い者が選ばれる。
水のウィンディーノ。火のサラマーディ。風のシルフィー。土のノーマリア。
アマダはウィンディーノだ。
水の霊法を操り、自身も水と化せる。
そしてその隣をついて歩くのは、タロー程のサイズの身の小さな男だった。
「あぅっ、あ、あの、あっ、お久しぶりでございまひゅ、っう、むっ」
大きな丸メガネにそばかすで、このとおり俺の顔や目付き、威圧スキルを全力で怖がる臆病者。
挨拶をして頭を下げるのも噛みまくりのままならないコイツは、霊界の筆頭司祭──ルノ・ココノアだ。
背丈の小さいノーマリアであるルノは、これでも立派に成人済みだったりする。
ノーマリアはみんな、人間の子どもくらいの大きさしかないからな。
「はぁ……ようこそ、魔界へ。だが、とっとと終わらせる。会談を始めるぜ」
二人が目の前の位置につくと、俺は肘掛けについていた肘を外し、自分の膝に置く。
本当は追い出したいがそうも行かないので、いつも通りの仏頂面で一瞥しながら外交対応だ。
「もう。地に足つけてわざわざ歩いたってのに触れないなんて、相変わらずお前は仕方ないなぁ……」
だがそれじゃあ足りないと言う様にぷかりと軽く宙に浮くアマダは、水の塊のように無重力感を感じさせる動きで漂って見せた。
実体がぼやけた精霊は、こうして漂うこともできるのだ。
シルフィーは煙になって風に舞う。サラマーディは火に。ノーマリアは強固な岩に。
体を変化させるのは容易だ。
しかし俺にツッコミを入れさせたくて態々歩いて来たのだと、アマダは誇る。
「よし、ほらタッチ。へいへい」
「なにしてんだ」
「ん? セクハラだぞ」
「外交問題だろうが」
足元を水の塊状態にして浮遊するアマダは、俺の座る玉座の周りをクルクルと飛び回る。
そして頬やら首筋やら腹筋やら、俺の体の好きなところを触り始めた。
この野郎。
王になってからだが、なんでいちいち俺に触ってくんだ。
俺をお触りしていいのもモフっていいのも、シャルとそれからタローだけだぜ。
そうあいつらが俺と出会った瞬間から決まってんだろうが。常識だろ。
(ふん、相変わらず掴みどころのねぇやつだ。俺に求めてることがわからねぇ……)
「うりうり。膝に乗っていいか? お触りしたいんだよ。挨拶的な感じで」
「どこの世界の挨拶が膝抱っこなんだ? お断りだ」
上目遣いで誘われたって、俺の目は塩っぱいだけである。冗談が過ぎるぜ。
まったく、相手国王へセクハラをする王がいてたまるか。ここにいる。最悪だ。
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