本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十四皿目 おいでませ精霊王

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「ひぇぇんフラレましたぁ……っ! シャル様ぁ無礼をお許しくださ、っふ、ぶぇぇぇんっ」
「よ、よーしよーし、頑張ったな。とても緊張していただろうに、よく言えたじゃないか……! 失恋は辛いな。よーしよーし……! 遠慮するな、たくさん泣くと良いっ」
「うひゅぅ、っぐすん、ふぶぇっ! うぇぇんっ!」

 緊張もなにもかも吹き飛んだキャットが、存分に泣きながらすがりつく。

 それを抱きとめた俺は、オロオロとしつつもどうにか慰めようとして、彼の頭をワシャワシャとなで繰り回す。

 俺は慰めるのが下手くそだ。
 相談をよく受けるが、うまく返せた試しがない。

 フラレてしまいこんなに泣かせたのだから、余計なことを言ってしまったかも、と悔いてしまう。

 泣き喚いたキャットは鼻水をズズーッと啜りつつ、上目遣いに潤んだ瞳で、捨て猫のようにゼオを見つめた。

「な、なんで駄目なんですかぁっ? 男だからですかぁ……っ! うう、せいてんかん、するますぅ……!」
「いや。と言うか誰だ、このぐだぐだメソメソしているのは。バグってますか」
「気持ちはわかるが、正真正銘キャットこと魔界軍空軍長補佐官、キャレイナル・アッサディレイア本人だ」
「なぜ」
「んんと、端的に言うとだな……威圧感のある人や尊敬する人の前だと、緊張してしまう。なので、さっきみたいな話し方になるらしい」
「ふぇ、うひっ、ぐすん、筋トレしたのにいぃぃ……っ!」
「嘘だろ」
「現実だ、直視してくれ」

 キャットはすっかり、鉄壁の緊張モードが露呈する程のショックを受けている。

 今まで知らなかったキャットの本性を知り、ゼオは珍しく、瞬きをパチパチと多めにした。

 これは本気で驚いているな。
 俺も当時は本気で驚いた。

「ゼオ、その、……本当はとってもかわいいんだぞ。……だめか?」

 そんなゼオに一縷の望みがあるのでは、と考えた悪い男。もとい俺。

 知られざる一面で胸キュンしてくれないか?
 こんなにかわいいんだぞ? だめか?

 少しも希望がないのか。
 それとも好きな人がいるのか。

 目は口程に物を言うな状態で、キャットと同じく心持ちうるうるとゼオを見つめる。

 するとそれを的確に受け取ったゼオは深く息を吐いて、自分の髪をワシャ、と掻き回した。

「二人揃って、そんな捨てられた斑ネズミみたいな顔しなくても……俺が悪者みたいでしょうが。お断り、別に悪気ないですよ。キャット副官も嫌いじゃないです」
「「!」」
「同時に同じ表情をしないでください」

 無表情なゼオが告げた言葉に、俺とキャットがキランッと瞳を輝かせる。

 嫌いじゃないなら、もしかするとチャンスがあるかもしれない。

 そう思ってしまうのは仕方がないだろう。瞳もキラキラしてしまうぞ。

 ぐすん、とキャットが鼻を啜った。

 希望を見て涙は落ち着いたようだが、擦れた鼻が赤くなっている。

 俺がわしゃわしゃなでたせいで、髪も乱れていた。むむ、これはマズイ。

 急いでせっせと整え、少しでもキャットをかわいいと思ってもらえるように、頑張ってみた。

 俺が乱してしまったからな。
 髪型でフラれたら戦犯過ぎる。

 ゼオはふう、とため息を吐いてから、その場にしゃがみこんだ。

 めそめそと情けない様子を露呈させてしまったキャットを、しげしげと眺める。

 その視線は幼児に対するそれだ。

 惜しむなくはかなりの無表情で、視線に滲むものに優しさの欠片もないということだろうか。

 実に無慈悲である。
 ゼオに慈悲はない。

 これがデフォルトなので問題ないのだが、うう……できれば希望を色濃くしたいな。



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