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十四皿目 おいでませ精霊王
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しおりを挟む「諦めないと言いつつ、シャルの膝、なんて安置中の安置に甘えているだけなら、一晩中一人そこで泣いていればいい。そうしたらそののぼせ上がった恋愛脳も冷めるでしょう?」
ゼオの赤茶の瞳がキャットに移り、尖った言葉が淡々と告げられる。
それはわざと突き放すような言い方をしているが、決断の後押しをしていた。
面倒くさいと言いながらも、彼なりに失恋を引きずらせないように考えているのだろう。
……か、考えているはずだ。
うん。きっと大丈夫。
「わかるだろ? だって、緊張で強がっていたのかもしれませんが……普段のあんたは、俺に同情なんか求めてこない男だったじゃないですか」
足元を凍らされて動けなくなったキャットはその言葉に目を丸くして、翼をバサ、と僅かに震わせた。
ゼオは緊張モードのキャットを嫌っていなかったし、その本質もわかっていたということだ。
キャットが弱虫ではない、とわかっている。
だからこそ、答えを求めている。
決められる男だと評価されたことに持ち上がるキャットへ、ゼオのダメ押しの一言。
「ほら、決めてください。──……俺に大嫌いだと言われても、そこでめそめそしていたいんですか?」
「!! い、嫌ですッ!!」
好きだという複雑な感情の早期決着をつけろと、むちゃくちゃを強いるゼオのダメ押しだ。
それを聞いた途端、バキンッ! と氷が砕け散る。
グリフォール化したキャットは、バサバサバサッ! と翼をはためかせた。
『嫌だっ! 嫌ですっ! 俺を嫌いにならないでくださいっ!』
「うっ、け、結界……っ」
落ち込んでいる余裕すらなくなったキャットがピィィ、と大きく叫びながら翼を広げ、見る間に巨体へ変化していく姿は、圧巻だ。
ゴオッ、と巻き上がった風に、俺は尻餅をついて転がりそうになった。
急いで結界を張り、感情のままに吹き荒れる暴風から身を守ったので、無傷である。
鷲の上半身に獅子の下半身。
金色に輝く空の守護者。
サラブレッドほどの体格がある大きなグリフォールは、足を固定していた氷をいとも簡単に粉砕したのだ。
そしてその勢いのままゴォッ! と風を吹きすさばせ、キャットは足元のゼオに飛びかかった。
「っ、と」
「ピュルルルルッ!」
ドン! という衝撃と共に、ゼオは避ける間もなく押し倒されてしまう。
押しつぶされたのかと思ったが、ゼオは細い腕を伸ばしてキャットの鷲頭を押さえ込み、鷲頭に擦り付かれる惨事を回避していた。
けれどキャットは甘えるような鳴き声を上げ、猛攻は止まない。
一見して人が襲われているようにしか見えないが、伊達に陸軍のナンバーツーに選ばれていないゼオだ。
身体強化を素早くかけたらしく、傷はなかった。
やはり目は死んでいるのだが。
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