本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
794 / 901
十四皿目 おいでませ精霊王

61

しおりを挟む


 だからこそ特に勝機はないので、俺のほうが気になって、我慢できずに戻ってしまうかもしれない。

(……いや、やはり一旦戻ろうか……?)

 普通に考えるとアゼルは犬ではないので、意味がない筈。

 俺と言うのはいつもこう、どこか抜けている。

 既に残してきたアゼルとタローが心配でそわそわし始めた俺が、部屋へ帰ろうかと振り返った時だ。

 ──ムギュッ、と温かな体温。


「ん?」

「…………」
「しーしてから、ぎゅー! 成功だねっ」


 突然力強い腕にキツく抱き寄せられ、思わず間抜けな返事をした。

 そして嬉しげにふふんと笑う、悪戯っ子めいた幼い声。
 どんどん魔王様に似ていく、愛しの娘の声だ。

 ぼんやりと考え事をしながら外を眺めていたからか、全く背後の気配に気づかなかったぞ。

「アゼル、タロー。大成功だな、気付かなかった」

 肩ごと抱きしめている腕に手を当てて首だけで振り向くと、そこには案の定、素敵な親子。

 グルルと唸りつつ居心地悪そうに不貞腐れたアゼルと、アゼルの肩の上でにへらと得意げに笑うタローがいた。

「ふふふ~でしょ~? まおちゃんがしーして歩いていくからね、私はしゃるの言いつけどーりに、まおちゃんを見てたんだよ! そうしたら肩車してくれた~」
「そうか。偉いぞタロー、ありがとうだ。アゼルは追いかけてきてくれたんだな、嬉しい」
「………べ、別に。俺にどこに行くかを言わないで勝手にどっか行くから、お前が悪い。俺には知る義務があるだけだ。俺が俺だからな、それだけだぜ。寂しくなったわけでも、そわそわしたわけでもねぇ。本当だっ! 手をつないで出勤の約束破りを咎めに来たんだ、馬鹿がっ」
「おっと」

 あんなに引きこもっていたのに、うっかり追いかけてきてしまったのが恥ずかしいらしい。

 アゼルはツンツンと言葉を紡いだ後、返事を返す前に俺の体を片腕で抱え上げ、さっさと部屋に運び始める。

 腕と足がブラブラしているぞ。
 まさか荷物扱いじゃないか?

 けれど俺を抱える腕はぎゅうっと力を込め、決して離すまいとした力強さだから、冗談でも荷物扱いなんて思えないんだけどな。

「ん……ふふふ、本物のわんこさんかもしれない」

 人一倍照れ屋で引きずるくせに、放置されて寂しくなるとつい出てきてしまうなんて。

 俺のワンコな旦那さんはかわいい。

 この対処法は、リューオやライゼンさんにも言っておいたほうがいいかもだ。

 俺の話をたくさんされていた仕返しは、こんなエピソードでもいいだろう?

「グルル……別に俺はお前以外にはうっかり犬系対応化しないし、お前以外なら追いかけたりもしないってこと、いつまで経ってもちっともわかってねぇシャルめ……っ!」
「? まおちゃんわんわん?」
「……アォン」


 十四皿目 完食



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

スイート・スパイシースイート

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...