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十五皿目 正論論破愛情論
09(Noside)
しおりを挟む危険な魔物が蔓延る森の中で、傷一つなく和気あいあいと歩いている二人と一匹がいる。
それをずいぶん離れた精霊城のテラスから、忌々しげに見つめる男が一人。
白く長い髪を靡かせ、豪奢な衣服を身にまとった彼は、彼らの笑顔が憎らしい。
そこに霊界の上層部らしい筋の通った理由なんて、ないのだ。
相手は本来ならなにかしらの感情を抱くことすらない、些末な存在。
それを離れという名の隔離房を用意して魔王から引き離し、体良く城から追い出したのは。
生活の必需品を与えず、侍従も付けず、不自由するよう放置し続けているのは。
食料に困窮した彼らが危険な森へ入り、あわよくば事故に遭うようお膳立てするのは。
それらを通して──〝お前らはこの世界では不必要で、誰彼にも不釣り合いだ〟と突きつけるのは。
全ては憎しみと、その根底にある愛情なのだ。
「異世界人……ズカズカと私たちの世界へ我が物顔で入り込み、過去はなく未来すら遺せない。姿形も変わらない、哀れな異物たち……」
その瞬間で終わるのだから、なにも欲しがらずに朽ちればいいものを。
元々の世界の者が涙し、心を軋ませ、辛苦を味わっているのに、身の程知らずにもほどがある。
「──セファー」
「っ、」
不意に背後から声をかけられ、憎しみに囚われる男──セファーはなるべく動揺を悟られないように振り向いた。
テラスから離れた出入口にいたのは、魔王。
魔力を感知できない精霊族にとって、気配を薄めるのが上手すぎるこの王は、常に警戒すべき相手だ。
今の独り言を聞かれていたのかと思ったが、魔王は反応するでも近寄るでもなく、クイ、と顎を外へ向けた。
「アマダが呼んでるぜ」
「……そうですか。わかりました」
素っ気なく要件だけを告げられ、セファーはアマダに会いに行くべく、出入口へ歩みを進める。
魔王、相変わらず愛想のない男だ。
尊き精霊王のいじらしい愛を受けながらも、それに気づかず侵略者の妃を娶った鼻持ちならない王。
なにを考えているのかはわからないが……精霊族の霊法の英智を集め神の恩恵を受けるこの城に来たならば、そうそう逃れられはしない。
スッ、と魔王の前を通り過ぎてから、セファーははたと立ち止まり、魔王へと振り返る。
「ちゃんと、王のそばにいてあげてくださいね。あのお方は、愛する人の前では泣けないんですから」
「…………わかってる。俺はもう、大切な人を一人で泣かせたりしねぇよ。……知らなかった罪は、償う」
「そう。魔王、感謝します」
恭しく頭を下げると、魔王は目を伏せてそれ以上何も言わなかった。順調だ。ちゃんと理解しているらしい。
マントを翻して歩き始める。
静かな廊下を踵を鳴らして闊歩しながら、セファーはニヤリと笑った。
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