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十五皿目 正論論破愛情論
12(sideゼオ)
しおりを挟むゼオはガタン、と席から立ち上がり、部屋の氷室魔導具からオレンジジュースをコップ一杯取り出した。
コトン。
「ご息女様は真面目で見所があります。これを飲みながら勉強し、終わったら呼んでください。零さないように注意すること」
「! おれんじじゅーす! 私大好き~ありがとうっ!」
「あれれ? ゼオ、俺っちのは?」
「どういたしまして。それでは後で」
「ゼオ、ゼオにゃー? 俺っちノードリンク?」
素直に感謝しふんふんとやる気を見せるタローに、ゼオはポンと頭をなでて背を向ける。
それからティータイム用に用意しているのだろう、ローテーブルの上の紅茶セットを手にして、壁際の作業テーブルを兼ねた棚の上に盆ごと移動した。
まずは新鮮な水の入ったガラスの水差しに魔力を流し、水を温める。
沸騰させている間にティーポットに魔力を流し、ポット全体を温めておく。
こうすることで、注いだお湯が冷めない。紅茶は温度が重要だ。
そこに彼のお気に入りである、柑橘系の茶葉を適量入れた。
沸騰したお湯を注ぎ、すぐに蓋をしめてしばらく蒸らす。
装飾が細やかで華美な陶器のポットだが、熱を逃がさない上物である。
その間にあたためたカップを用意し、シャルから贈られたのだろう、ベリーのジャムも添えておく。
彼はこれを砂糖の代わりに紅茶に溶かすのが好きなのだ。
甘いものがさほど得意ではないゼオにはわからない飲み方だが、そこらの女性魔族よりよっぽど美意識の高い彼のことだ。
なにか意味があるのだろう。興味はない。
苦味が出ない程度に茶葉を踊らせてから、ポットをひとまわし。
そっとカップに中身を注ぐ。
コポコポと琥珀色の美しい紅茶が注がれると、湯気と同時に芳しい香りがふわりと広がった。
ゼオはこの瞬間が好きだ。
丁寧に淹れた紅茶は、芸術的なのだ。
そしてポットの口についている魔法の茶こしは、ユリスが魔導研究所海軍基地支部にいた頃、開発したものである。
確か魔王様は一人お茶会が好きらしいと聞いて、意気揚々と考えた便利な魔導具だ。
組み込まれた魔力回路のスイッチに触れて起動するだけで、ポット内の茶葉だけを吸着する。
すると茶葉だけを通過登録した茶殻シューターに、転移させられるのだとか。
メンテナンスや掃除の手間を省き、余った紅茶が渋くなることもない。
これが開発されたのはもう何十年も前のことだが……懐かしく思う。
あんなに盲目的に追いかけていた魔王様を諦め、まさかある日突然魔王様が無期限の居候だと連れてきた、人間の勇者と恋仲になるとは。
淹れたての紅茶とジャムを二人分、カップを手に持ちジャムをふわりと浮かばせた。
ゼオは朝からずっと魔導具をいじってばかりいる、元・クラスメイトのもとへ向かう。
彼──ユリスとは、ディードル魔法学園時代、学力テストの上位を争っていたものだ。
「言いたいことがあるのに愚痴る相手がいない時は魔導具を弄る癖、まだ治ってないんですね。たまには素直に〝ちょっと聞いて〟って言えばいいのに」
「ッ! う、うるさいよっ! 別に、アイツがいないと寂しいとか、ぜんぜんないんだからねっ!?」
「あぁ、やっぱり勇者がまだ帰ってこないから寂しいんですね」
「お前細切れにされたいの!?」
カァァァ……っ! と顔を赤くしてキャンキャンと噛み付く姿は、ゼオの言葉が図星だったことを意味している。
ユリスの魔導具で、ゼオのティータイム環境は向上した。
なので話を聞くぐらいなら、タローのドリルができるまでの待ち時間、してやってもいいと思ったのだ。
魔界と精霊界。
たった一週間でも、どちらにとっても少し寂しい時間なのである。
「ねぇねぇゼオちゃん、もしかして俺っちの分だけマジガチでノードリンクッ!?」
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