本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
813 / 901
十五皿目 正論論破愛情論

13

しおりを挟む


 ◇


 森で拾った喋るイズナと焼肉パーティーをした日から、更に三週間が経過し、ついにひと月が経ってしまった。驚きである。

 アゼルからは一度だけ手紙が届いた。内容は現状維持。
 更には〝お前ら二人は帰ってもいい〟とまで書いてあったが、アゼルを置いて俺が帰るわけもない。

 リューオは少し帰りたそうだったけれど、一発殴らないと気がすまないそうだ。殺意の居残りである。

 それに久しぶりのアゼルの手紙は、あまりに素っ気なかった。

 持ってきてくれた見張りの門番の一人にアゼルの様子を尋ねたけれど、一兵士なので存じ上げませんの一点張り。

 なにかあったのかと考えるのは当たり前である。

 だけど精霊城に近づいてはいけないと言われているし、手紙には国同士の問題で妃と言えども明かせない、悪い、と書いてあった。

 素っ気ないだけで、俺を大事に思ってくれている気配は感じる。たぶん他の誰が見てもわからない気がするけれど、間違いはない。

 普通に考えればアゼルや精霊族への疑念が募って、動けなくなる。

 ひと月も離れへ放置され、音沙汰もなく、姿を見ることすらできない。

 やっと届いた手紙には、なにも言えないしなんでもないがまだ帰れないから、先に帰っていてもいいぞ、なんて。

 でも俺は俺なので、そうは思わないのである。

〝先に帰っていてもいい〟

 記憶を失ったりしたわけでもなく、アゼルがアゼルのままなら、この文は〝まだここにいてほしい〟ということなのだ。

 第一級アゼル愛好者の俺をあまり舐めないでほしい。

 みんな忘れがちだが、彼はツンデレだ。
手紙だろうがなんだろうが、うまく言えない男だからな。

 そんなわけで、アウェイで始める強制サバイバル生活は続行。

 最近はなぜかパーティー翌日から井戸が枯れてしまったので、炊事洗濯に風呂の水は森の川まで汲みに行く日々である。

 リューオが陰謀だとキレていたが、お互い水魔法は使えないので仕方がない。

 とは言っても怪力のリューオにかかれば、水汲みなんて軽いものだ。
 勇者様の怒りの炎で念の為に煮沸消毒もしたし、俺たちにはそれほどダメージがない。

 たまに川の水が人間に有害なもので汚染されている謎事件があったけれど、リューオの聖剣で浄化すれば問題がなかった。勇者様様である。

 そうそう。洗剤なんかもないので、現代で石鹸を作った記憶から調理場のオリーブオイルで手作りした。

 無添加石鹸、なかなかイイぞ。

 パン作りに使う重曹があったので、苛性ソーダの代わりに使った。料理は化学だ。代用や効果は応用できる。

 本当は二ヶ月程度熟成させなければならないのだが、リューオが聖剣で浄化して使えるようにしてくれた。

 強すぎる刺激を毒とみなして、問題ないレベルまでまろやかにしてくれたらしい。聖剣の勇者、最強じゃないか。

 暇なのでその石鹸を使って離れを掃除しすぎて、ついに俺は屋根の修理もしてしまった。
 なかなかに快適空間ができてきたな。

 あれから離れに住み着いたイズナには「旦那方は人間じゃねぇ」と断言されたが、紛れもなく人間である。

 朝からラジオ体操に精を出し、戦闘狂による戦闘訓練や俺によるクッキング教室を開き、午後は尽きない暇をどうにか潰す。

 突然知らない世界に召喚された俺たちにとって、ひと月他国に放置されるくらい、へこたれるわけがなかった。

 ──問題はそれよりも、サバイバル技術では賄えない一点。

 麗らかな昼下がりに頭を突き合わせ、今日も今日とてテーブルに突っ伏する俺たち。


「アゼル……アゼル、ひと月もお前に会わなかったのは、初めてだ……ああ、アゼル……ううぅ……」
「ユリス……ユリスユリスユリスゥゥゥゥ……ッ! お前にひと月も愛してるとかわいいを言ってねェエェェ……ッ!」
「アゼルぅ~……っ」
「ユリスゥ~……ッ」


 それは圧倒的な、愛情不足であった。

 馬鹿らしいということなかれ。俺たちはいたって真剣で、深刻な症状を抱えているのだからな。ひたすらに恋しいのである。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

処理中です...