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十五皿目 正論論破愛情論
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森で拾った喋るイズナと焼肉パーティーをした日から、更に三週間が経過し、ついにひと月が経ってしまった。驚きである。
アゼルからは一度だけ手紙が届いた。内容は現状維持。
更には〝お前ら二人は帰ってもいい〟とまで書いてあったが、アゼルを置いて俺が帰るわけもない。
リューオは少し帰りたそうだったけれど、一発殴らないと気がすまないそうだ。殺意の居残りである。
それに久しぶりのアゼルの手紙は、あまりに素っ気なかった。
持ってきてくれた見張りの門番の一人にアゼルの様子を尋ねたけれど、一兵士なので存じ上げませんの一点張り。
なにかあったのかと考えるのは当たり前である。
だけど精霊城に近づいてはいけないと言われているし、手紙には国同士の問題で妃と言えども明かせない、悪い、と書いてあった。
素っ気ないだけで、俺を大事に思ってくれている気配は感じる。たぶん他の誰が見てもわからない気がするけれど、間違いはない。
普通に考えればアゼルや精霊族への疑念が募って、動けなくなる。
ひと月も離れへ放置され、音沙汰もなく、姿を見ることすらできない。
やっと届いた手紙には、なにも言えないしなんでもないがまだ帰れないから、先に帰っていてもいいぞ、なんて。
でも俺は俺なので、そうは思わないのである。
〝先に帰っていてもいい〟
記憶を失ったりしたわけでもなく、アゼルがアゼルのままなら、この文は〝まだここにいてほしい〟ということなのだ。
第一級アゼル愛好者の俺をあまり舐めないでほしい。
みんな忘れがちだが、彼はツンデレだ。
手紙だろうがなんだろうが、うまく言えない男だからな。
そんなわけで、アウェイで始める強制サバイバル生活は続行。
最近はなぜかパーティー翌日から井戸が枯れてしまったので、炊事洗濯に風呂の水は森の川まで汲みに行く日々である。
リューオが陰謀だとキレていたが、お互い水魔法は使えないので仕方がない。
とは言っても怪力のリューオにかかれば、水汲みなんて軽いものだ。
勇者様の怒りの炎で念の為に煮沸消毒もしたし、俺たちにはそれほどダメージがない。
たまに川の水が人間に有害なもので汚染されている謎事件があったけれど、リューオの聖剣で浄化すれば問題がなかった。勇者様様である。
そうそう。洗剤なんかもないので、現代で石鹸を作った記憶から調理場のオリーブオイルで手作りした。
無添加石鹸、なかなかイイぞ。
パン作りに使う重曹があったので、苛性ソーダの代わりに使った。料理は化学だ。代用や効果は応用できる。
本当は二ヶ月程度熟成させなければならないのだが、リューオが聖剣で浄化して使えるようにしてくれた。
強すぎる刺激を毒とみなして、問題ないレベルまでまろやかにしてくれたらしい。聖剣の勇者、最強じゃないか。
暇なのでその石鹸を使って離れを掃除しすぎて、ついに俺は屋根の修理もしてしまった。
なかなかに快適空間ができてきたな。
あれから離れに住み着いたイズナには「旦那方は人間じゃねぇ」と断言されたが、紛れもなく人間である。
朝からラジオ体操に精を出し、戦闘狂による戦闘訓練や俺によるクッキング教室を開き、午後は尽きない暇をどうにか潰す。
突然知らない世界に召喚された俺たちにとって、ひと月他国に放置されるくらい、へこたれるわけがなかった。
──問題はそれよりも、サバイバル技術では賄えない一点。
麗らかな昼下がりに頭を突き合わせ、今日も今日とてテーブルに突っ伏する俺たち。
「アゼル……アゼル、ひと月もお前に会わなかったのは、初めてだ……ああ、アゼル……ううぅ……」
「ユリス……ユリスユリスユリスゥゥゥゥ……ッ! お前にひと月も愛してるとかわいいを言ってねェエェェ……ッ!」
「アゼルぅ~……っ」
「ユリスゥ~……ッ」
それは圧倒的な、愛情不足であった。
馬鹿らしいということなかれ。俺たちはいたって真剣で、深刻な症状を抱えているのだからな。ひたすらに恋しいのである。
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