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十五皿目 正論論破愛情論
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しおりを挟む「俺はそれだけで嬉しかった。俺なんかは、卑屈で価値がない。愛されるわけがないと思っていたから、諦めにも似た恋をしていた……惨めだろ?」
「っそんなことはない。アマダは綺麗で、俺とこうして話をしようなんて向き合う強さもあるし、素敵だ。セファーだってアマダを大切に思っている様子が、俺にもよくわかる」
「はは、お世辞はいいんだ。セファーは昔から世話をしてくれた人だし、部下だからな。シャルのほうがずっと綺麗でたくさん愛されている」
「お世辞なんかじゃ、」
「いいんだ! ……だって事実だから、アゼリディアスはシャルを選んだんだ。これが答えじゃないか……っ」
「あ……」
首をひねって俺に向き直ったアマダは、感情の高ぶった声と共に、ポロポロと涙をこぼしていた。
懸命に彼のいいところを伝えようとしていた俺は、ハッとして声を失う。
──どうしよう、泣かせてしまった。
そしてアゼルが選んだのが俺だったのは事実で、アマダの五年分の想いを潰したのは俺だ。慰めも謝罪も全て、彼を傷つけてしまう。
月明かりに照らされて光る涙が白い頬を伝っていくのを目の当たりにして、焦燥感がせぐりあがる。
アゼルは子どものように泣くけれど、アマダは痛い、悲しい、辛い、と悲痛を伝えるように、こらえきれないように泣いた。
唇が震える。
「アマダ、俺は……俺はお前が好きだ……」
「!」
どうにかしてそれを止めないといけないという感情のあまり、俺は気がついたらそう口にしていた。
こぼれ落ちそうなほどに目を見開いたアマダ。
一瞬涙が止まって、俺と目が合う。
嘘じゃない。
もちろん恋愛感情での添い遂げる愛を求めるアマダの言う、本当の愛ではないだろう。
けれど俺はちゃんとアマダに好感を覚えたからそう言ったのだ。
──これまで俺よりも先にアゼルを愛していた人は、ユリスと、確か天界の王子も。
けれどユリスはアイドルや信仰のような盲目的な恋だったことと、真正面から感情をぶつけられたことで、俺も思うとおりの誠意を見せて和解した。
天界の王子──メンリヴァーは、アゼルを愛していたというよりプライドから執着して復讐しようとしていたから、俺も罪悪感より怒りが沸いてしまった。
けれどアマダは、とてもいい人だ。
アゼルを愛している。俺の一番愛しい人を同じく愛する人だ。
そしてなんの力もないただの人間である俺と二人で対面して話そうと、ここを訪ねて来てくれた。
人間風情と見下されてもいない。優しい人。
目の前で泣かれるのを黙って見ていられるほど、俺にとってアマダは酷い人じゃなかった。
瞬き一つで落ちる涙。
アマダは自分の目元を擦り、顔を上げた。
「……羨ましい、シャル。お前のような、誰にでも好かれる存在になりたかったよ」
擦ったせいで真っ赤になった目元が痛々しくて、俺は返事ができずただ見つめ返す。
「底抜けに優しいな……。お前は弱々しい人間だけど、だからこそ守ってあげたくなったのかもだ。あの護衛も、シャルを守ろうとしていた。弱くても、ずっと笑っている。きっとそれが幸せだった。わかるよ。……弱さと明るさが、羨ましい」
「……そう、だな。俺は……とても弱い。でもダメだ。俺はアゼルから離れることはできないし、諦めることもできない」
「シャル……──アゼリディアスを解放してくれないか?」
「なに……?」
じっと俺を見つめる真剣な瞳を見返して、今度は俺が目を見開くハメになった。
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