本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十五皿目 正論論破愛情論

45(sideキャット)

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 ──そうして二人で笑い合っていた時だ。

 突然部屋の明かりが全て消え、キィン、と高い金属音のような音が聞こえた。

「……タロー様、俺の後ろに。決して動かないで。付与魔法をかけます」

 望まれない来訪者の気配。

 不穏なそれを感じた俺は、素早く身体強化をかけ戦闘態勢に入った。

 自分の手から抜き取ったパペットをタロー様に手渡し、背後に庇う。

 それから「風、物理防御耐性、魔法防御耐性」と唱えると、体内の力が相当量抜ける代わりに、タロー様にバフがかかる。

 他人に付与魔法をかけるのは、かなりの魔力を消費するのだ。それでもせいぜい二時間くらいしかかからない。

 回復魔法が得意な者が少ないのも考えると、たぶん、根っから魔族は守ることに向いていない種族なんだ。

 それでも俺は、守らなけらばならない。

「っ、にゃんにゃ、だめ」

 大きく広げた翼の影でタロー様は恐怖からなのか震え、俺を制止した。

 生後一年も経っていない彼女が怯えるのも無理はない。敵は姿を現していないからだ。

 夜鳥の声すら聞こえない、静かな室内。静寂の夜。

「大丈夫ですよ。俺はグリフォール、グリフォールは財宝の番人……防御が得意な種類なんです。ね」

 これは、詭弁だ。

 いつも味方陣地を守っている俺は、本当は一人だけの生き物を守ることなんてこと、滅多にない。

 今は一人きりだし、魔力も消費している。自信はない。得意でもない。自分の防御力と他者を守ることは、同義じゃないからだ。

 だがそうも言ってられないだろう。

 ついさっき俺は守ると意気込んだところで、有言実行すべき。それが、魔界軍空軍長補佐官の仕事。

 俺はニコリと笑って見せ、安心してもらおうと思った。

 けれどタロー様の表情は、変わらない。


「ううん、ちがう、そうじゃない……っにゃんにゃん、見えてないの……?」
「え……?」

「この部屋、色がなくなったよ」


〝色がない〟

 俺の目には月明かりまで色鮮やかに見えるこの部屋の中で、精霊族であるタロー様には、モノクロに見える……?

 それじゃあ敵は──精霊族?

 なんで、そんなバカな。
 なにかの間違いに決まっている。

 魔王様とシャル様、そして魔王様の近衛兵黒人狼部隊と、リューオ様。

 彼らは今、精霊族に呼ばれ、霊界にいるんだぞ?

「た、タロー様は精霊族……同族なのに……っ」

 冷や汗が頬を伝った。どれだけ明確な敵を探そうとも、展開したグリフォールの固有スキル、魔力警戒には引っかかっていない。

 そう、引っかかっていないのだ。
 この魔王城には、魔族が犇いているというのに・・・・・・・・・・

 魔力を持たず、タロー様には感知できる力を持つ種族の、攻撃。魔王城とこの部屋を切り離す能力。

 それはつまり……──


「ッ、まさかもう俺たちは、上位精霊の空間支配下にいるのか……ッ!?」

「──ご名答」


 聞き馴染みのない静かなバリトンボイスがどこからか聞こえ、俺の予想を裏づけた。



 ───────────


 本日、十皿目の後に〝いつも木樫の作品をお楽しみくださりありがとうございます〟記念SS「番外編② しゅきしゅきビーム」を追加いたしましたぜ(ペコリ)
 連載中の部分がお話の真っただ中なので途中に追加したため、こちらにてご報告をさせていただきまする!
 シリアスシーンに茶々を入れる形になってしまい申し訳ございません。が、いつもありがとうございます(感涙)

 木樫


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