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十五皿目 正論論破愛情論
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しおりを挟む封鎖的な精霊族は、俺たちが暴れる理由がわからない。
利己的、というより他者の気持ちになって考える習慣がなく、まさか供物に意思があり悲しんでいるとは思わなかったのだ。
そんなことありえない。
とんでもない。
俺たちが儀式にタローを差し出すと知ってそう思ったのと同じように、精霊族はどうして問題があるのか、と思っている。
アゼルの言う〝未来のジズ〟をなくすためには、そこをキチンとつつく必要があった。
「さぁ考えろよ、木偶共。古き良き風習において、これは残すべきか、変えるべきか。俺がどうして怒り、ここへやって来たのか。必死になって〝自分が相手だったら〟、とな」
テーブルに腰掛けたままの俺は、動きを止める精霊族を見回し、言い聞かせる。
「他者に言われた言葉を考えろ。是でも否でも、考えろ。なぜそう答えを出したのか、考えろ。そしてちゃんと──行動しやがれ」
そうだ。
相手の気持ちを考えると、俺がどうして怒っているのか、ひいてはなぜここに来たのか、わかるはずだ。
作戦云々は置いておいて、想像の範疇でもたどり着ける答えがある。
「わかったらさっさと、嫁に旦那を返しやがれッ! 単身赴任は許可してねぇぜッ!」
ドバーンッ! と効果音が鳴りそうなくらい迫真の勢いで睨みながら言う。
すると動きを止めていた精霊族たちが、一斉に「お?」と首を傾げた。
なにも間違っていないぞ。旦那と娘、と言いたいが、それは秘密なのでこれで正解だ。
娘だと思っていると言えば、コイツらは情で動いている、と思われ思考停止されるからな。今の時代、赤の他人でも生贄は大問題だ。
精霊族たちが疑問符を消して俺の言葉について考え始め、ヒソヒソする。
そのヒソヒソを満足に見つめていると、リューオが肩をツンとつついた。
「シャル様。クソバカ魔王ポンコツバージョンは激似過ぎるので、シリアスシーンではおやめください。爆笑しそうです」
「ん? いや、内容は素だ」
「爆笑しそうです」
小声でツッコミを入れられ小声で返すと、無表情のままプルプルと震えられる。
酷い。なんでだ。俺は真剣なのに。
アゼルらしく仏頂面で座る俺に、今度は「はい」と精霊族から手が上がった。
「なんだ、言ってみろ」
「ジズに感情や言葉があるとは思わなかった。だが、我々とて儀式を行わず、神霊様に祟られたくはない。やむを得ないと思うが」
「ジズが自分と変わらない存在であること、自分が生贄の場合を考えたか?」
「考えてみた。すごく嫌だ。私には妻と子がいる。離れたくない。しかし行かねば、家族が危険だ。仕方がない」
「ククク、そうだろうな」
「妃が怒っている理由は、帰らない魔王様を離れた場所で待つのが辛いのかと思う。精霊族である我々は放置されることになんとも思わないが、大切な者と離されるのは不満だと理解できた」
「ふふん。上出来だ」
自分に置き換えて考えた精霊族に対して親指を立てると、他の精霊族も口々に自分の意見を周囲の者と語り合い始める。
それを眺めながらちらりとタローの鳥かごを見ると、タローは親指をたててにこーっと笑っていた。かわいい。
俺とリューオは真顔のまま、揃ってグッと親指を立て返す。
そうだ。こういう思考の種を蒔けば、これまでにない意見をする時、いきなり提案するよりずっと受け入れてもらいやすい。
祭事具を壊すことと、思考の種を蒔くこと。これが今回の役目なので、結果は上々だ。
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