本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十五皿目 正論論破愛情論

78(sideアマダ)

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 ──神殿前・広場。

 本来なら明るい時間帯に執り行うはずだった儀式が、トラブルにより月の昇る時間帯へとずれ込んでしまった。

 風の向くまま気の向くままに生きる精霊族とはいえ、信仰は違う。行動の指針だ。

 失敗は許されない。儀式の成功が、精霊王としての大きな仕事。

 千年に一度のたいへんな儀式であるから、わざわざトラブルシューターとして魔王に助力を願ったのだ。

 にも関わらず、トラブルは起きてしまった。

 極秘の儀式故に遠ざけていた魔王の妃であるシャルが、護衛を引き連れ会場に乗り込み、儀式に必要な祭事具を破壊したのである。

 どうやって城の中央へ入ってきたのかはわからない。

 精霊城は外からは見えないように霊法が掛かった特殊な城で、人間がかんたんに侵入できるはずはなかったのに。

 だがその謎を解明する時間はなかった。

 壊れた祭事具を補修し、とにかく儀式を行うことを最優先に考えねばならなかったからだ。

 いつもはこういう時、政治を担当するセファーが案を出して、解決してくれる。

 会場で侵入者が暴れるなら、軍事を指揮するジファーが前に立ち、ことを収めてくれる。

 けれどどういうことかジファーは姿が見えず、セファーは会場の補修の指揮にかかりっきりだ。

 アマダとてそれらの管理に追われていたので、他には手が回らなかった。

 ただどんなに忙しくてもシャルの言ったことが頭に残り、顔色が曇る。
 怒りのような、悲しみのような、処理しきれない気分になる。

 シャルは、アマダを否定するからだ。

 アマダにそんなつもりはなかった。
 きちんと説明しているのに、シャルはアマダの痛い部分を的確にいたぶる。

 酷い話じゃないか。
 離れを訪ねて話をした時は、シャルはあたかも自分が被害者のような顔をしていた。

 まるで善人であると語るように、恋敵であるアマダを受け入れる素振りをする。

 アマダがどれだけ魔王を想って正しいことを説明しても、シャルは頑なにワガママを言い張るのだ。

 その発言のたびに魔王の名前を出されて、アマダは何度も胸が痛くなった。

 アマダはシャルの二倍も前から想っている。

 魔王のために精霊王にもなり、他種族で男である自分を嘆きながらも、想い続けていた。

 もちろん、シャルの存在を知ってからも無理を通す気はなく、譲ってもらえないなら身を引こうとしたじゃないか。

 なのにシャルは魔王に愛され、仲間に愛され、そして穏やかな善人を気取り、思い出話を語る。

 アマダは懸命に笑ったが、表情や涙に悲しみが溶けてしまった。

 ずっと昔から共に支えてくれているセファーにはバレてしまい、あの日の夜は慰めを求めたほどだ。

 求めた存在が手に入らない悲愴は、精霊王だろうと一人では耐えられない。

 儀式の段取りが整ったことを確認しながら、アマダは自嘲気味に笑った。

 そんなアマダを、王兄であるガルが広場の隅から見つめている。

 いつものことだ。
 優秀な兄だったが、精霊族の中でもいっとう個人主義である。

 ガルに嫌われていると思っているアマダは、その視線の意味は特に考えず、仕事を進めた。

 このように、根底に愛を求める心があるアマダは、しばしば他人の感情を都合よく取ってしまうところがある。

 寂しげに笑っていればセファーやジファー、司祭たちや兵が気にかけてくれるからだ。

 それは無意識の行動だった。



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