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十五皿目 正論論破愛情論
80(sideアマダ)
しおりを挟む「悪いな。一週間の予定が、こんなに時間がかかって。予想外の問題があって、解決に手間取ったんだ」
「別に、構わねぇよ。魔界に帰れば一ヶ月分の仕事が待ってると思うと、多少辟易するがな」
申し訳なく謝るとなんてことないように答えた魔王に、ははは、と笑いを返す。
逆隣に立つセファーからは視線を感じたが、振り向かずにいた。
迎えにきたシャルを跳ね除け魔王がアマダの隣にいることに対して、心のどこかで優越感を覚えている。
もしかしたら自分を選んでくれるかもしれないという期待もあった。
どちらが客観的に見てふさわしいかと言うと、自分だと思う。
性格も多少似ている。
シャルと自分は容姿も似た系統だと思うし、その似た系統でおそらく自分のほうが上等なたぐいだ。
別に自分を綺麗だと言ってるわけじゃなく、人に散々言われてきたから。自覚もなければ、その気はない。
だからこそ、アマダは口元に笑みを浮かべて、魔王を見つめた。
魔王はアマダをその夜闇に似たオニキスの瞳に映し、艶やかに細める。
「今は夜だろ? 俺は夜になるとこの姿でも、なかなかに鼻が利くんだ」
「え?」
「立ってみろ、アマダ。……最高に甘い匂いがする」
儀式が進行していく中、視界を遮るようにアマダの目の前にやってきた魔王から、席を立つように言われ、カァ……ッ、と頬が赤くなった。
そう言った魔王の表情がたまらなく愛おしげだったから、自分の匂いがそんなに甘いだろうかと思い、自覚はないが気分がいい。
魔王ごしに一の扉の鍵が開けられ、扉がギギィ、と腹の底から鳴り響く地鳴りのような音を立てるのがわかった。
ジズが扉の前に到着したのだろう。
空を舞う精霊が鳥かごを持ち上げ、一の扉の中にジズを置く。
二の扉の隙間からは、黒々とした瘴気が漏れ出ていた。
五メートルはある腕が扉から伸び、バンッ、と一の扉の中の空間を叩いている。
恐ろしい音だ。精霊族たちは頭を垂れて祈っていた。アマダとて怖い。
早く扉を閉めてジズごと持って行ってもらい、鍵を閉めなければ。
そう思った時──扉の中に入れられたジズの鳥かごが、音もなくひとりでに弾けた。
「──聖域ッ」
どこからともなくシャルの護衛のよく通る声が聞こえ、聖力が波状に広がり満ちていく感覚がある。
兄の能力の気配だ。
怪我をして腑抜けにならなければ最も精霊王に近かった男──ガルシス・サアリオッツ。
(あの個人主義の兄がまさか……ゲートを作って、シャルの護衛を広場に入れたのか……ッ!?)
アマダが武器であるレイピアを手に体を液状化して舞い上がった瞬間、ドゴォンッ! と激しい破壊音が鳴り響く。
神殿のほうで巨大ななにかが突っ込んだ。
大きく開いた一の扉の中へ、だ。
(あれは、竜っ? なにが……ッなにが起こっているんだ……ッ!?)
「アマダ」
「ッ!?」
ゴガァンッ! と轟音とともに剣撃が襲った。
狼狽しながら立ちはだかる魔王へ向き直ったアマダへ、魔王が剣を振るい、先程まで立っていたところがクッキーのように崩壊したのだ。
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