本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十五皿目 正論論破愛情論

82(sideアマダ)

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 魔王に攻撃を放ちながらそれらを確認するまで、たった二、三分のできごとだ。

 なのに戦闘開始すら悟らせず、各々が一気に精霊族を圧倒した。
 そんなことはあり得ない。


(魔王は、シャルは、勇者は、ずっと精霊界──俺の手元にあったのに……っ!)

「アマダ、よく見てろ」

「ッ! なにを……ッ!?」
「王……っ!」


 だがそちらに気を取られている隙に、舞い上がったアマダに向かって剣撃が襲い掛かり、背後の舞台は轟音とともに崩れ落ちた。

 セファーが声を上げるが、問題ない。
 空を飛べるアマダは落下しない。

 瓦礫を躱して空へ舞い上がるが、自分に剣を振るった──魔王がアマダとともに空へ舞い上がる事実に、頭と胸が鈍痛を訴える。

 わかったことはただ一つ。
 ──裏切られたということだけ。

 愛した人に裏切られたんだ。
 結局、待っていたところで剣を向けられるだけ。自分は誰にも愛されない。

 千年の精霊族の存亡をかけた儀式を土壇場で破壊されて、打つ手があるわけない。

 魔王に向けて水の弾丸を雨のように浴びせかけるが、それを全て剣一本で防がれる。

 裏切りを理解したアマダは懸命に飛びながら攻撃を行う。
 しかし魔王は、切り込んではこなかった。

「アゼリディアスッ! どうしてだッ!?」
「フン。お前はそればかりだ。俺はお前に言うことがありすぎて、口が足りねぇくらいだってのにな。いいからちゃんと見てろ」
「なにをッ! 同盟の反故ですよ、魔王……ッ! ッぐ!」

 戸惑うアマダが痛みのままに叫び、ただ立ちふさがる魔王に訴えかけるが、仏頂面でそっぽを向かれる。

 そして同じく飛び上がったセファーが炎をまとった鞭をしならせて魔王に攻撃を繰り出す──が。

「テメェの相手はこの俺様だコラッ! クールでイケメンで最高にイカしたユリスにモテるためのイケイケ騎士様キャンペーンは、終わってンぜッ!?」
「ッ貴様ッ! まだ私の邪魔をするのかッ! 不法滞在の異世界人がッ!」

 その鞭を白く光る剣撃で弾き飛ばし、セファーに飛びかかるものがいた。

 それはシャルの護衛だ。
 異世界から来た勇者──リューオ。

 美しい装飾の施された重い大剣を振るう彼は、金色の虎に見える。

 魔界の一員にならず一匹でも十分生きていけるはずだ。セファーにも負けない戦闘力がある。

 なのに、彼はアマダを睨み、警戒し、セファーに真っ向から立ちはだかり、離れでも昼間の騒動でも、シャルを守り続けていた。

「っ……俺たちはなにもしていない! 精霊族のために、正しいことをしていただけだ! なのにどうして、わかってくれないんだ……!」

 そっぽを向いていたのが、声をあげるとアマダをじっと見つめて言葉に耳を傾ける魔王の気持ちなんて、なにもわからないのだ。

 守られるだけのシャルは、弱い。
 邪魔者。そうも価値があるように思えない。

 涙するアマダに首を横に振り続けるような、冷酷で自分勝手な人間なのに。



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