手の届かない元恋人

深夜

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俺がしゃがんでいた目の前の建物が仲里の家だった。
まぁここで倒れてたら迷惑だから声を掛けてくれたのだろう。仲里さんはお世辞にも決して優しそうな顔をしている訳でもなく、威圧感のある方だ。
声を掛けてくれた時も威嚇をしているかの様な顔をして、俺を覗き込んできた。正直、終わったと思った。
でもこんな誰かも分からない俺を助けてくれたのだから悪い人ではない事は分かる。まだ火照る身体をなんとか支えながら家に入る。中はシンと静まり返っていて、風鈴の音が心地よい。昔ながらの家の造りに懐かしさを感じる。おばあちゃん家に帰ってきたかのような気分がして気持ちが落ち着いてくる。

「ほら、ここで少し寝てなさい。濡れタオルもあるから好きに使いなされ」

「ありがとうございます....お借りします」

用意してくれた布団に入り、どうやってアイツに会えばいいのだろうかと考える。もう俺はいつも通りにはできない、だからこそ何か考えなければいけないのだ。怖いんだ、過去を消されて、出会ってなかったかのようにされるのが。
もう頭が落ち着かない。思うように寝れない。
誰かに話してしまいたい。
そう思った俺は居間で休憩している仲里さんに声を掛けていた。

「仲里さん...俺、恋人に急に振られたんですよ」

返事はくれなかった。
俺はただぽつりと天井に向かって話しているだけで、
仲里さんの顔は見なかった。
だけど、自分よがりだけど話を聞いてくれているような感じがしてどんどん口が勝手に動いていく。

「でも今日、仕事で会うことになっちゃって、
仕事だから私情は挟まないって決めてたんですけど、
やっぱ怖くて。俺、アイツに忘れられてるんじゃないかって思うのが怖くて、辛いんです。....まだ好きなのかもしれないんです。」

もうこのまま止まれないふりをして、全てを話してしまおうか。ただ無視をされるのも良いかもしれない。
期待した顔をして仲里を覗き込んでいた和弥は諦めた顔をしてまた話そうとした。
だが、それは仲里によって遮られる。
ガバッと身体を起こすと、仲里は誰かを思い浮かべているかのように、ポツポツと話始めた。

「好きかもしれない、忘れてほしくない、怖いってことはそりゃあアンタの覚悟がないから、アンタも倒れるまで考えて、また言い訳作って頭ごちゃごちゃになるんだよ。覚悟を決めなきゃダメさ。また一緒になる事を。」

「かくご...」

またアイツと向き合うってことか...
拒絶されたらどうしようとか、そもそも俺が振られたんだからお前から来いよとか、思うところが沢山あるけど、俺はこのまま終わらせたくない。
足掻いてみたいって気持ちが大きい。
仲里さんの言う通り、覚悟を決めてみよう。
またアイツが隣にいる日々を送りたい。
少し頑張ってみよう。

「ばあちゃん、お願いがあるんだけどさ...」

そう言って、和弥は立ち上がった。

正直、捨てられた側がまた復縁したいって迫るのおかしいと思ったり、普通お前から来いよって感じだけど。しょうがないか、だって俺まだ好きだし。
こっぴどく振られるのもいいかもしれない。
まだ諦めきれるから。

さっきよりも、身体が軽くて、少し風が顔に当たってくすぐったい。これから緊張するはずなのに行くのが楽しみな自分もいる。さっきの場所に行くと、田中さんと他のスタッフさんが数人いた。動いて、機材を運んでいる人もいれば、指示を出して声を上げている人もいる。
これから撮影に入るだろうか、前より暖かみのあった雰囲気はすっかり真面目モードに変わり、自分も真剣な気持ちになる。台本を握りしめて、深呼吸をする。

「篠原さん~?!....髪切ったんですか?」
「少し暑くて、クラクラしてしまったので切っちゃいました。お時間くださりありがとうございます。」
「全然大丈夫ですよ!その髪型素敵です。」

今までこんな短くしてもらった事はない。
初めての感覚に、むず痒しさを感じる。

「では、撮影に入っていきます。改めて、篠原先生、
今日は宜しくお願いします。」

「素敵なドラマにしていきましょう。」

和弥はそう言って、微笑んだ。





____



お久しぶりです。
BL大賞にエントリーさせていただきました。
気軽に見ていってください。


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