「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

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 アリーチェはそんな彼にさえ怒りが湧くが、この男はそれさえも計算のうちなのだろう。
 けれど、アリーチェの感情はそんな理性など効かなくて、気付けば体が動いていた。

「 だまれ 」

 アリーチェは、既に自分の声が違う事にさえも気付けなかった。
 怒りが頭に回って、この男を殺さなければと本能だけで、男の体を片手で掴み上げた。
 男は一瞬苦悶の表情を浮かべたが、すぐに例の胡散臭い笑みを浮かべる。

「ですからっ、忠告したはずです・・・。はやく、逃げた方がいいって・・・」

 アリーチェの魔力の圧に手きれなくなった神父は口から青い血を吐き出した。
 人の形を成してないアリーチェの手にそれがかかる。
 けれど、アリーチェはそれに何も思わなかった。

「チャンスは・・・差し上げ、ましたよ」

 不敵な笑みを浮かべる神父。
 それもアリーチェを煽るためのものだと分かっていても、アリーチェは荒れ狂うものを止めることは出来なかった。

──もう、あのルッツがいないなら、こんな世界なくなって仕舞えばいい

「 ゼンブ ケシテ ヤル 」

 アリーチェは本気でそう思った。
 何もかも消えて仕舞えばいい。
 こんな世界に意味なんてない。
 だって、もう、自分が彼の求めるアリーチェである必要などないのだから。
 それだけの力が今の自分にはある。

「えぇ、そうですよ・・・アリーチェ様、そこそ陛下が望んだ力。あぁ、なんと醜く美しい・・・」

 惚けた顔をした神父はそれを堪能するかのように目を閉じた。
 もうおこ男に用はない。
 アリーチェは、神父を持つ手に力を込めようとしたした瞬間──

「殿下! 」

 アリーチェの鼓膜を懐かしい響きが揺らした。

 振り返れば、そこには気絶し倒れているマルティラに駆け寄るルッツの姿があった。

「・・・あぁ、これは計算外ですね」

 神父が呟いた。

「アリーチェ様の魔力の爆発に気づくなんて・・・あの女、薬を盛るのをしくったか・・・」

 クソッと神父が力ない舌打ちをした。

──ルッツだ

 アリーチェはその目に彼を映し、固まった。
 間違うわけがない。
 あれだけ恋焦がれた彼が前の前にいる。

 ルッツはマルティラを抱き寄せ、彼女の容態を確認すると、ハッとしてアリーチェの方に顔を向けた。

 瞬時にルッツの顔に険しさが乗る。
 彼の体を魔力が纏われていくのが見える。
 アリーチェを警戒していた。

──見られた

 アリーチェはそのルッツを見て、自分の姿を思い出す。
 彼が記憶を失っていなくても、もう何一つアリーチェの形を残していたものは何もない。

「 ア゛ アァ 」

 アリーチェは叫び声を上げる。
 神父は力の抜けたアリーチェの手から落ちていくと、唸り声を上げて地面に倒れた。

「 ミナイ デ 」

 アリーチェは混乱した頭でそう叫ぶと、ルッツから逃げた。
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