「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

文字の大きさ
19 / 24

18

しおりを挟む
 決して、アリーチェは父に思い入れがあったわけではない。
 彼と過ごした時間は僅かで、彼は父親というよりも魔王という存在だった。
 アリーチェを器としてしか見ておらず、アリーチェを大切にするのも目的の為だと分かっていたから。
 アリーチェをいきなり見知らぬ所へ放り投げた彼に愛情を抱けるわけがない。

 だから、魔王が倒された瞬間、アリーチェは父の死に対する寂しさは感じなかった。
 むしろ、その時が来てしまったのだとういう衝撃の方は強くて、ルッツとの思い出を茫然と思い返していた。

 そして、しばらくして神父がアリーチェに王都を出るように言った。

『今の貴方では勇者に近づくことも出来ませんよ』

 神父はアリーチェに警告した。
 ルッツとアリーチェでは身分が違うのだと。

──そう、だって、もう・・・

 一度吹き出し始めた力は。制御できぬほど大きくなりアリーチェを覆っていく。
 アリーチェは自分が、ただルッツの帰りを待っていた時の自分ではなくなっていることは知っている。
 それを止めることは出来ず、そのままアリーチェの心まで飲み込んでいく。

「ひぃぃい! 」

 マルティラが驚愕の表情を浮かべ、這いずりながらアリーチェから逃げようとするが、腰がひけて動けない。
 そして、アリーチェの姿をもう一度目にし、最後には気絶した。
 アリーチェの瞳には、そんなマルティラたちが小さく見え始めた。

 次の時代に力を受け継ぎ、魔族は強くなる。

 もう、アリーチェは人の形を成してなかった。
 けれど、中から湧き出る感情を抑え込むことができないアリーチェ。
 いや、止めようともしていない。

「 なんで こんな こと 」

 アリーチェは上手く回りにくくなった口で神父に尋ねる。
 神父はそんなアリーチェの姿にご満悦の様子。

「もちろん。私が忠誠を誓っているのはただ一人。魔王陛下の想いを託された私の責務ですから」

 それが自分の幸せだと言わんばかりの笑顔を浮かべる神父。

「 ちがう そんな の ちが う 」
「違いませんよ。私の役目は、次期魔王の器として完璧な貴方を守ること。そして、我らが何百年も待望していた完璧な魔王の誕生をこの目で見届けることです! 」

 両手を広げ感無量だと神父は叫んだ。
 彼も感情が昂り、頭にツノが現れ人の皮が剥げ始めていた。

「そのためには、全て重要だったのですよ。そのおかしな女に貴方の情報を吹き込んで煽ることだって、勇者が貴方のことを忘れている事実を突きつけて差し上げるのも! アリーチェ様には絶望を味わい、そして本来の力を目覚めさせていただかねばならなぬのですよ!! 」

 彼にとっては全てここに来るまでの過程。
 王宮での出来事は魔王の力を受け継いだアリーチェには対処できると踏んでの事。
 猛毒なんて魔族のアリーチェには一目で分かるし、第一効果はない。
 そして誰かに狙われている。
 そう自覚させることで、アリーチェの神経を逆撫でしていたのだろう。
 そんなマルティラのやり方に、ルッツに影響を受けすぎたアリーチェが怒ることも全て分かって。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

その日がくるまでは

キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。 私は彼の事が好き。 今だけでいい。 彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。 この想いを余す事なく伝えたい。 いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。 わたしは、彼に想いを伝え続ける。 故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。 ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。 確実に訪れる、別れのその日がくるまで。 完全ご都合、ノーリアリティです。 誤字脱字、お許しくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】魅了魔法のその後で──その魅了魔法は誰のため? 婚約破棄した悪役令嬢ですが、王太子が逃がしてくれません

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その魅了魔法は誰のため? 一年前、聖女に婚約者である王太子を奪われ、婚約破棄された悪役令嬢リシェル・ノクティア・エルグレイン。 それが私だ。 彼と聖女との婚約披露パーティの噂が流れてきた頃、私の元に王太子が訪れた。 彼がここに来た理由は──。 (全四話の短編です。数日以内に完結させます)

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

処理中です...