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しおりを挟む彼がルッツの村とは違う場所の同郷だと気づくのはすぐだった。
自分と同じ匂いが彼からして、久しぶりの同族との出会いに感動もしたが、出会った時から彼はとても胡散臭い笑みを浮かべていた。
そして、魔王への忠誠心を語り出す彼を見て、アリーチェは彼とは分かり合えないだろうなと悟った。
だって、今のアリーチェにはそれが全てには思えなかったから。
それからアリーチェは神父のいる教会に通い、魔族用の食事を手に入れるようになった。
そうでないとアリーチェは自分の体を維持することさえ不可能。
だから、どんなに彼が胡散臭くても彼を頼るしかなかった。
そして、リッツが勇者として旅に出た後のある日、神父が「そろそろですかね」とアリーチェに言った。
「何が」とアリーチェが問えば、神父がなんともないように「勇者の記憶を消す日ですよ」と口にした。
それにアリーチェが納得するわけがなく、どういうことだと彼を問い詰めた。
『何、簡単なことです。彼が主人を倒しに行った。そうすれば、貴方は勇者の近くにいる必要はない。けれど、貴方と勇者は親しくなりすぎたのでね。詮索されては不都合ですから、彼の記憶をいじることにしたのですよ』
平然と何事もないかのように神父は言った。
ついて行けと言ったのか彼らなのに。
彼らが勇者と過ごして彼の保護下に入れと言ったのに。
今度は勝手にそれを消すのかとアリーチェに怒りが湧いたが、神父は呆れた顔でアリーチェに問いかけた。
『まさか、目的をお忘れではないでしょう? 』
そう言われて、アリーチェは頭が殴られた気分になった。
魔族である自分が彼の側にずっと一緒に入れるわけない。
分かっていたのに想像できていなかった。
きっとあれから修行を重ねた彼はもっと感覚も能力も格段に上がっているはず。
そうなれば、アリーチェが何者なのか彼に分からぬはずがない。
いきなり突きつけられた現実は、アリーチェにはあまりにも残酷だった。
けれど、それに抗うことなど、アリーチェには出来なかった。
勇者が成果を上げる度にやってくる同族の子供達の姿があったから。
自分だけ逃げるようで、アリーチェには出来なかった。
今思えば、その決断もルッツがいたからできたのだろうとアリーチェは思う。
ルッツは、見過ごすアリーチェを好きではいてくれないだろう。
ルッツが好きになってくれた自分までも失いたくはなかった。
そして、ルッツは戦闘中の事故に見せかけて記憶を消された。
アリーチェの事だけ綺麗さっぱり消された。
アリーチェの十五年が消されたと知った日の夜、アリーチェはどうしようもない虚無感に襲われ寝付くことさえ出来なかった。
その数ヶ月後、魔王──アリーチェの父は倒された。
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