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しおりを挟む──あぁ、だから嫌なのよ
アリーチェは、神父の顔を見ながらぼんやりと思った。
心底、この神父が嫌いだ。
王都にやってきてすぐ接触をはかってきた時から、この男が大っ嫌いだった。
アリーチェは十五年前、魔族たちに森に連れて来られ「勇者を待て」と言われた。
必ずアリーチェの放つ魔力につられ、勇者がやってくる。
彼は本能でアリーチェを見つけ出すと彼らは言ってアリーチェを残して消えた。
彼らは言っていた。
『勇者についていけば安全だ』
『あいつがお前を守るだろう』
『お前は時がくるまで待て』
『それまで、勇者についていけ』
アリーチェがするべきことは一つ。
魔王が勇者に倒され死ぬその時まで生き延びる事だった。
そして、アリーチェが森を彷徨っていると、ルッツが現れた。
彼はまだ剣も持てないような丸い柔らかそうな手でアリーチェを引っ張った。
それは魔族にはない温もりがあって、アリーチェは思わず彼の手を握り返した。
アリーチェも彼が勇者だと本能で分かった。
だから、アリーチェはルッツについて行くと決めた。
ルッツの両親に引き取られたアリーチェは、人間として生きる事となった。
村で使用されている程度の浄化魔法では、アリーチェの体はびくともしなかったが、時々やってくる神官達には注意が必要。
それでもアリーチェにとってはたいしたことではなかった。
問題だったのは、人間の負の感情を刺激してしまうアリーチェの体質。
アリーチェの魔力は他の魔族と異なっていて、親から受け継いでしまったその能力は少し厄介だった。
それは成長する度に強くなる。
けれど、アリーチェが成長すればルッツも成長する。
彼の中に眠っている勇者の力は、無意識に使われ、荒れそうな人々の心を落ち着かせた。
だから、大きな問題もなく、アリーチェはその村で過ごすことができた。
アリーチェも最初は勇者としてしか彼を見ていなかった。
けれど、心というのもは簡単に絆されて、アリーチェはすぐに彼に懐き、そして彼を望み始めた。
それに嘘はない。
だから、命令だけでルッツを追いかけたのではない。
アリーチェは、もう彼と離れるのは考えることができなくて、彼を王都まで追いかけた。
けれど予想外だったのは、王宮で使われる水だった。
魔族としてはまだ幼く、知識もなかったアリーチェは、不意に水に触れてしまった瞬間、経験のない激痛に襲われた。
あそこまで念入りに施された浄化魔法への耐性はない。
けれど、アリーチェはルッツから離れまいと、王宮に留まることを選んだ。
ただ全ての水を回避するのは不可能。
水は食事にも使用されていてアリーチェを困らせた。
村にいたときは、なんの味を感じなくても食べ物を口にすることはできていたが、強すぎる浄化魔法が施されたものではアリーチェは近づくことも出来ない。
なので、食べるふりさえもできないアリーチェは、適当に言い訳をして毎回食堂には行かなかった。
魔族たちの食事は、人間とは異なる。
魔力が生命線の魔族は、魔力を補うことによって力を得る。
けれど、近くの植物からそれを得ようとしても、浄化魔法の施されているそれらはアリーチェにはむしろ毒だった。
どうするべきか迷っていた時、神父がアリーチェの前に現れた。
彼は、人間たちが回復ポーションとして使用する瓶の中に、アリーチェが望む食事を入れて渡して来た。
『我々は同志ですよ』
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